「うちに置いてある商品の中で一番高くてヤバいのを大量に買っていったんだよ」
 店長は、そう言ってショーケースの中から何やら蝶か蛾のイラストが描かれているボトルを取り出した。
「それが、一番ヤバいヤツですか?」
 私が、そう尋ねると、店長は、小さく頷いて、
「エクスタシーだよ。大抵は、偽物が流通してるんだけど、うちでは本物を偽のボトルに入れて高値で販売しているってわけよ」
「どんな効果があるのですか?」
 私は、そのボトルの中身を見てみたいと思った。
「う~ん、はっきり言っちゃえば、覚醒剤だよ。一部のこういうショップやラブホテル内で本物を扱っているのが現状。世に出回っている殆どが、偽物だけどね」
 私は、直感的にこのクスリが、アカネの死因だとその時確信した。恐らくは。一度に大量の危険薬物使用を行ったのだろう。
「このボトルに、百錠入っている。値段は、到底学生に買える金額じゃあ無いよ」
「いくらくらいですか?」
 店長は、しばらく目を伏せて黙っていたが、意を決したように口を開いた。
「十万は、下らないよ。だから、最初は、彼女の冷やかしだと思った。でも、あの娘は、真剣な表情で数日後に金を持ってくるから一ボトルストックしておいてくれって懇願してきたんだよ」
「そうしたら、本当に数日後深夜二時頃に彼女が現れた。金をしこたま持ってきたよ。どうやって金を手に入れたのか?尋ねたら、売りをやったと答えたんだよ」
「売春?ですか?」
「そう、多分ハンパじゃない数の男たちと、やったんだろうね」
 私は、アカネがそこまでして危険ドラッグを手に入れたかった事を知り、驚くと言うよりは、ある程度予測の付いた出来事に感じた。
「人一人が、死んでいる。もう、この店も直に閉店するよ。あの娘には、気の毒だったと思うけど、クスリなんて所詮使うか、使わないかは、自己責任なんだよ。何の知識も無いまま乱用したら、大体こうなるんだ。君は、大丈夫だろうけど気を付けなよ!」
 店長は、そう言ってマルボロを一本吸いながら、長く伸びた金髪を後ろで束ねた。