夜九時の就寝時間が過ぎて、私は、もしも母から渡された薬やアカネと一緒に好奇心で使った合法ドラッグをやっていなかったら、人生そのものが全く違うものになっていたのではないか?そして、私にとって大切な存在であったはずのアカネを失う事もなかったのではないか?そんな自問自答を繰り返し頭の中に巡らせて、その日は、なかなか寝付く事が出来なかった。あの時買ってしまったラッシュを今更どうこうする事は、出来ないが、私の人生に於いて、未だに悔やんでも悔やみきれない出来事であったことは、間違いないだろう。
 
 数日後、アカネと私は、恒例の性交渉をするために、わざわざ学校を休んで計画的な犯罪に近い行為の念入りな打ち合わせをしていた。
「行為の前と、クライマックス前に舌の下にスプレーするのかぁ~」
 アカネは、どこか楽しそうにラッシュの使用説明書を見ていた。私は、正直あまり乗り気ではなかったが、いわゆるセックスドラッグと言うものが、普通の状態でする「それ」と、どれだけ違うのか?に関しては、興味があった。
「そろそろ、始めよっか?」
 アカネは、驚くほどあっけらかんとしていて、早く行為に及びたいのか?洋服を脱ぎ始めて下着姿になったところで、何の躊躇も無くラッシュを舌下にスプレーした。それを見て直ぐに私も裸になってラッシュをスプレーして、下着姿のアカネに襲い掛かった。

 数回におよんだラッシュを使用してのセックスは、確かに以前のものとは、違う感覚があったが、私にとっては、むしろ毎晩母から処方される薬の方がはるかに劇的な効果を感じられた。アカネは、さすがに疲れた様子で、しばらくベッドの上で裸のまま眠っている様に横たわっていた。まだ、膨らみきっていない幼い乳房や綺麗な白い肌と細くて美しい脚が、当時の私には、まるで優れた芸術作品の様に見えて、鑑賞するに値するものだったのを覚えている。

 
 母が、施設に面会にやって来たのは、私がここに入院してから半月ほど経った頃だった。年齢的にも体力的にも、夏の強い日差しや日照りの中、わざわざ面会に来てくれた事は、少しだけ嬉しいような感情が過ったが、私自身、母への憎悪にも似た感情が、沸々と込み上げてきてしまい、面会を拒絶しようと思った。施設長が、私の病室まで説得に来てくれて三十分だけと言う条件付きで、私は、面会に応じた。