「あの、ショーケースの中のモノを見せて欲しいんですけど……」
 私がそう言うと、金髪の店員は、少しめんどくさそうにカギを持ってショーケースを開けてから、何かを悟ったかのように話しかけてきた。
「君達、まだ学生でしょ?困るなぁ~。まあ、お客さんだからいいけどさ」
 アカネは、ショーケースの中に並んだより取り見取りの合法ドラッグに興味津々の様子で少し微笑んでいるように見えた。
「あの~、セックスが気持ちよくなるクスリってどれが一番いいですか?」
 アカネは、恥じらうことなくストレートな直球を金髪店員に投げた。
「へえ~、君って可愛らしい顔して凄い事聞いてくるね~。そんなにセックスが好きなの?それとも、コイツが下手くそすぎるとか?」
 金髪野郎は、客である私の事を「コイツ」呼ばわりした上に、タバコだけではないであろう口臭が酷くて、私は、一瞬でコイツを嫌いになった。多分、私が、それまで生きてきた中で最速で嫌悪感を感じた人間だ。
「まあ、定番は、ラッシュだね。他にもあるけどラッシュが一番おススメかな」
 金髪野郎は、そう言って小さな黄色いボトルを二つケースから出して私とアカネに一つずつ手渡した。
「一つ三千円、二人分で六千円だけど君達まだ学生だろうから二つで五千円でいいよ!使い方は、知っているの?」
 千円まけてくれた意外といい奴かも知れない金髪店員は、黒い袋にラッシュのボトルを詰めて何やら説明書の様な物を一緒に入れてくれた。
「スプレータイプだから、行為中とオーガズム直前の瞬間にお互いに舌下にスプレーすると、すっげえぶっ飛ぶから。まあ、あんまりハマらないでね!」
 今にして思えば、この時代は、まだ規制が厳しくなかったのでこんなやり取りが出来たのだろう。アカネは、今までにないくらいの満面の笑みで袋を受け取って五千円札を一枚財布から取り出して、金髪店員に渡した。
「ありがとうございました!」
 後で知った事だが、この金髪店員は、この店の店長だった。アカネは、満足そうな表情で黄色いスプレーボトルを私に一つ渡してくれた。
「三千円俺が出すよ」
 私は、そう言ってアカネに三千円を渡してその日は、そのまま二人とも静かに自宅へ戻った。