今にして思えば、これがアカネにとって悪夢の入り口になってしまったのかも知れない。そして、その道筋を教えたのは、紛れもなく私自身であり、もっと言えば私が、アカネを死に追いやった真犯人だったのだろう。それは、今でも、いや、この数十年間ずっと私が背負い続けてきた罪の意識とその償いを何一つ行っていない非人道的な生き様そのものだろう。ここにいる私も含めた患者たちは、薬物依存と言う人類が抱える永遠の問題点を抱え込んでいる。私は、アカネを死に追いやった真犯人であり、薬の魔力に取り付かれてしまったジャンキー達の数は、減るどころかむしろ増えていると思っている。ただ、私は、母によって訳も分からず薬を与えられた当時は、何も知らなかった薬の力を借りて、恐らくは、普通に生きていたら辿り着けなかった社会的地位まで昇りつめる事に成功した。スポーツの世界ならば許されないドーピングの様なものだったのだろう。大事な試験前や、試験の始まる前、要所要所で私は、薬の力を借りて驚異的な集中力とエネルギーに満ち溢れたやる気の高さを武器に一流の高校や大学、大学院を経て、遂には、司法試験に一発で合格して弁護士になる事が出来た。それは、私の人生と言うよりは、母の手による「飼育」だったのかも知れない。施設のベッドに横たわりながら、私は、また、今までの人生を振り返る回想を続けていた。

 アカネとの約束の日、私は、いつかの日と同じ様に自宅を脱出して待ち合わせ場所の近所の公園に向かった。公園に着いた時には、既にアカネは、ブランコに乗りながらタバコを吸って私を待っていた。私を見つけたアカネは、ニコリと笑って大きく手を振ってブランコから降りて私の元へ近づいてきた。
「いよいよだね!何かワクワクするっ!」
 アカネは、とても嬉しそうな表情を浮かべて吸っていたタバコを私に差し出した。アカネから渡されたタバコを、私は、少しだけふかしてから、暗い闇の中に放り投げるように捨てた。
「じゃあ、行こうか」
 私とアカネは、手をつないで例の店に向かった。五分ほどで店に着いた私とアカネは、躊躇うことなく店の中に入った。店に入ると、前に来た時の店員では無く、金髪ロン毛のがっしりとした体つきの中年男性が、カウンターでタバコを吸いながら私とアカネを見つめて少し眉を顰めるような表情を見せた。