一年後、退院した陽菜は何度も推敲を重ねたあの小説をたまたま腕試しのつもりで小さな文学賞に応募してみたところ大賞を取ってしまい、その後出版の運びとなり作家デビューとなった。

そんなある日の事だった、亨があの日の約束をかなえようと思い立ったのは。

人目もはばからずデートを重ねていたある日のこと、デートの最後に東京タワーの展望台で夜景を見ていた陽菜に意を決して話しかける。

「なあ陽菜、俺あの日の約束を守ろうと思うんだ」

亨による突然の言葉になんだろうと不思議に思う陽菜。

「一体何の事、約束って何?」

「俺たちの結婚の事だよ、移植するよう説得したときに約束したろ?」

「何言っているのよ、あれは忘れてって言ったじゃない」

「陽菜こそ何言っているんだ俺は本気だぞ。俺たち結婚しよう、良いだろ?」

「そんな事言ったってあたしの病気は移植したとはいえまだずっと通院が続くのよ」

それでも亨の意思は変わらずその表情は決意に満ちていた。