多くの緑に囲まれた木々に沢山のセミが鳴き始める頃、この日もいつもの様にこの病院に入院する陽菜(ひな)のもとに由佳(ゆか)が見舞いに来てくれた。

「陽菜見舞いに来たわよ、どう調子は」

彼女たちはともに高校三年生の十七歳。

毎日のように由佳は病気の為に入退院を繰り返している親友の陽菜を見舞う為にこの病院を訪れている。

対して入院中一人ぼっちの陽菜も誰かが来てくれるとすごくうれしく感じていた。

「いつもありがとう来てくれて。どうもこうもないよ、いつも退屈で仕方ないわ。テレビカードを買わないといけないからテレビは見られないし、そうするとラジオばかりになるのよね」

「そうよね、あなたのお気に入りの(かける)もラジオの声だけで一度も顔を見た事ないんですものね。五年位前だっけ最後に退院したの、今回は長いよね、翔がデビューしたのはその後だからまだ一度も顔を見た事もないのよね。我慢しないでテレビカード買えばいいのに、言ってくれればあたし買って来るよ」

陽菜は由佳の言葉にも申し訳なく思い引け目を感じており、この由佳の申し出を断ってしまう。