「おかえ…どうしたの。」

制服姿の年若い女性、姉のエリカが、
ビビとアンの帰りを出迎えました。

「エーちゃん。ただいま。」

エリカはビビとは6歳も離れた姉です。

驚いたエリカは宇宙人のアンの存在に
疑問を抱いたのかと思いましたが、
ビビの予想とはまったくことなりました。

「草だらけ。河川敷でケンカでもした?
 ごはんより先、おフロ入ったら?」

「はじめまして、エーちゃん。わが名はアン。
 『赫き暗黒からの使者』であり、
 血の盟約者。」

「知ってる。よろしくね。アンちゃん。」

ふたりは握手を交わします。

上がりかまちに立つエリカでも、
玄関のアンは同じくらいの頭の高さがありました。

「おフロか…。」

「おフロは初めて?」

「コンセプトは理解してる。」

堂々とうなずくアンですが、
エリカはその返事にいぶかしみます。

それから妹のビビと目が合いました。

「ビビ、一緒に入ったら?」

「えぇー。」

手も顔が川砂まみれのビビには、
異を唱えたところで姉を説得できませんでした。

浴室に異彩を放つ毛むくじゃら。

「どうして石持ち込んでるの。」

「これは浮かぶやつだ。」

「浮かべなくていいよ。」

川で拾ってきた軽石を、
ビビは大事そうに持っています。

先に入って身体を洗い終えたビビは
ボトルを持って、アンの頭に直接ポンプで
シャンプーをかけます。

「これシャンプー足りなくなりそう。」

「ビビ、目が、目がいたい。」

「お湯で洗い落として。
 その前に軽石置いて。」

湯桶に軽石を浮かべて
丹念に目を洗うアンをよそに、
ビビは全身をシャンプーの泡だらけにしました。

「できた。
 『白きうたかたからの使者』。」

「わがはいで遊ぶな。
 もうフロはイヤだ。」

「お湯に浸かるまでがおフロだよ。」

先に湯船に浸かったビビを見て、
アンはぞっとします。

「煮えた湯に浸かるなんて拷問ではないか。」

「煮えてないよ。
 これはただのジェットバス。」

シャワーで全身の泡を流して、
アンも恐る恐る湯船に足を入れます。

「熱いし、くすぐったいぞ。」

「そういうもんなの。」

アンの毛が吹き出す気泡で流され、
湯船が赤い川ができます。

「やっぱ熱い。出る。」

「だから早いって。」

ビビは水面に手を合わせて
水鉄砲をアンに浴びせようとしましたが、
勢いが足りずにお湯が少し飛んだだけです。

「なにをする。どうやった?
 マジックか?」

「手品じゃないよ。こう?
 握手するみたいに手をずらして。
 親指? の間から。」

「なるほど。こうかな。
 ウォーター・カッター!」

アンが1度試しただけで、
放たれたお湯は彼女の意図とは別に、
見事にビビの顔に命中しました。

「もー! なにすんの。」

「これはなにか意味があるのか?」

「え? ないよ。お湯がムダになる。」

「ないのか。なぜやった?」

「なんとなく?」

「地球人のやることは分からん。」

「上から目線。」

「宇宙人だからな。」

アンが天井を指差します。

「そりゃそうか。」

「そうだぞ。」

他愛のない談笑をしていると、
エリカが浴室に顔を覗かせました。

「ふたりともごはんにするから、
 そろそろおフロ上がんなよ。」

「はーい。」

「エーちゃんは美人だな。」

「どうせあたしは似てませんよ。」

アンがそうつぶやくと、
ビビがふくれっ面を見せます。

「わがはいはそんなこと言ってない。」

「ちがうの?」

「誤解だ。
 わがはいはビビをほめてる。
 ビビはおかしな地球人。」

「全然ほめてないからね、それ。」

「おしかったか。」

「おしくない。」

「おしくないか。」