「アンちゃん、スシって知ってる?」

「知ってるぞ。
 スシ、天ぷら、ゲイシャガール。
 代表的な文化は下調べしてある。」

ビビの姉、エリカの質問に、
ソファに座ってアニメ映画を見ているビビの前で、
床に座る毛玉が答えました。

「最後の知らない。」

「ごはん前で、またアイス食べてる。」

ソファに座るビビは両足をアンの肩に乗せ、
赤い毛の頭の上でカップアイスを食べていました。

オススメされた火星の映画は、
アンが興奮気味でモノマネをしてきます。

しかし知らない言語のために、
ビビには詳しい内容までは分からず
アンの変なモノマネに笑ってしまい
集中力が持ちません。

「今日はみんなでスシを食べに行きます。」

「行こう。海か?」

「スシはスシ屋だよ。」

「あ、もちろん、回転する方ね。
 ワサビって大丈夫?」

「宇宙ってワサビあるの?」

「火星にもワサビあるぞ。
 マーズ・ホースラディッシュ。
 スシマスタード。ギャラクシースシ。」

「あるんだ、宇宙のワサビ。」

アンはなにやらずっと興奮気味です。

「それじゃ今日は
 地球産の本場ワサビを味わうわけだ。」

「いたい、からい。」

アンが舌を出してイヤそうな顔をしたので、
エリカは嬉しそうに笑いました。

そんなエリカの提案で晩ごはんは、
ビビの母、ティナと4人で外食となりました。

「地球のスシは初めてだ。」

「宇宙のスシってどんなの?」

「サーモン、アボカド、ギャラクシーロール。」

「ギャラクシーロール?」

「巻きスシのことかな。」

「巻きスシ、ある?」

「あると思うよ。
 たぶん想像してるのとは
 ちょっと違うと思うけど。」

テーブル席に案内されて、
レーン側の席にアンとビビが座りました。

「スシがいっぱい流れてくる…。」

透明なカバーがされた皿に乗った
スシの行列に初めて見たアンが目を輝かせます。

「こうやって取るんだよ。」

ビビがカバーを外して手本を見せます。
最初に手に取ったのは玉子でした。

「ここにサワラはある?」

「サワラはないと思うよ。」

アンの隣でティナが言います。
ティナは通路側の画面端末で、
手早く注文をはじめました。

「これ美味しいよ。」

ビビの横のエリカが割って取ったものは、
酢飯と白身の間に青葉が挟まっています。

「エンガワ。カレイ、ヒラメのヒレ。」

「そうなんだ。
 あーヒラメのエンガワとか言うもんね。」

アンは自分のタブレットで
事前に調べた知識を披露すると、
勧めた側のエリカが納得して
1つつまんで食べました。

「わがはいに勧めたのに。」

「んー。
 さっぱりとコリコリしてて美味しいよ。」

しょうゆにワサビを溶かして、
アンもその大きな口で食べます。

ワサビにヤラれて鼻にシワを寄せました。

「巻きスシ来たよ。」

ビビが鉄火巻を取って見せました。

「これが地球のギャラクシーロール?」

アンは首をかしげます。

「違うの?」

「違う。」

ちょうど4つあるので、
みんなで分けて食べます。

ティナは別に注文したかぼちゃの天ぷらを、
アンにおすそ分けしました。

「マグロがキレイ。」

「キレイ?」

アンのつぶやきに、ビビが反応します。

「ルビーみたい。」

「あぁ、宝石のか。好きだなぁ。
 マグロ食べる?」

「食べる。あ、これ!
 これがギャラクシーロール。」

アンが取った巻き寿司は、
カニ風かまぼことアボカドを海苔で巻き、
酢飯を外側にして白ごまをまぶした、
いわゆるカリフォルニアロールでした。

「これが好きなの?」

「んー。アイスのが好き。」

「アイスの話してないじゃん。」

「ふたりともパフェがあるよ。」

「あとで食べる。
 今日はなぜスシ?」

「エーちゃん、
 バイトの給料日なんだって。」

ティナはエビの天ぷらが乗った
うどんをすすっています。

それから提案者のエリカが言いました。

「今日はわたしのおごりだから。
 いつも家のこと手伝ってくれてるし、
 ふたりとも好きなの食べていいよ。」

アンの隣のティナはといえば、
注文したあさりのみそ汁を
マイペースに食べています。

「バイト…。仕事?
 エーちゃんは仕事なにしてる?」

「デザイン事務所の手伝い。
 お母さんの知り合いの。
 でもデータの整理とかほとんど雑用かな。」

「石ひろいとかないの?」

「事務仕事だしそんなのないよ。」

「ないのか。」

エリカの当然の答えに、
アンは残念がりました。

「外食もたまにはいいでしょ。」

みんなでデザートを食べ終えて
会計の際に、エリカはギョッとします。

「お母さん?」

「ごちそうさま。」

一番食べていた母のティナは
自分の財布からカードを取り出し、
笑顔で手早く支払いを済ませました。