目尻の笑い皺。腕が、肩が、半袖から伸びたわたしの素肌に触れるたび、彼の熱を伝えてくる。

ふたりでじゃれあっていた日々がありありと蘇ってきて、わたしはその眩しさに思わず目を閉じた。

あの頃に戻りたくて。

もう一度ふたりで何気ない毎日を過ごしたくて。

彼の横顔を見つめたまま動けないわたしを、オオルリの鳴き声が後押しするように一際高く響いた。

幸せはすぐ隣にある。

青い鳥はそんな教訓を含んだお話だったはず。

ねぇ、わたしたちもう一度……。

ふと振り向いた彼が「あのさ……」と言い淀む。

わたしはおびえながらその言葉の続きを待っていた。もし好きな人ができたとかなら、今すぐ逃げてしまいたい。

「俺たち、一緒に暮らさない?」

思いがけない言葉に、わたしは立ちすくんでいた。

少し恥ずかしそうで、散々喧嘩した思い出も全部忘れていないくせに、どこか置いて行かれた子どもみたいに頼りなさげで。

だからわたしはその胸に飛び込まずにはいられない。

「結婚しよう」

青い鳥に祝福された二度目のプロポーズ。

その瞬間に、わたしが被っていた強がりの毛皮がすとんと剥がれ落ちたみたいだった。

きっと今わたしの背中には青い羽根が生えているはず。



~完~