外に出ると朝の涼やかな風が足元をなでていった。ズボンばかり履いていたからか、膝下が心許なくて何度もつま先に目を落とした。
玄関前に車が滑り込んできて、運転席からおりてきた彼が「久しぶり」と片手をあげた。
少し日に焼けた顔、前より短くなった髪。でもその笑顔は少しも変わっていなかった。
急に眼の下が熱くなってわたしは慌てて瞬きをした。
車のボンネットで朝日がまぶしく跳ねている。
「車買ったの?」
涙ぐんでいるのを誤魔化すように車の方に目を向ける。
「まあね。さ、乗って」
彼は助手席側のドアを開けて、私がぎこちなくシートに収まるのを見ていた。
車は快調に走りだし、一時間ほどかけて山の中のキャンプ場のようなところに着いた。
入り口にある木の案内板に、扇形の野外ステージやアスレチック、池の周りを歩くウォーキングコース、コテージやバンガローのイラスト付きの地図があった。
「こういう場所に来るならもっと動きやすい服で来れば良かった」
先に言ってくれれば良かったのに。次第に強くなる日差しに日傘か帽子も欲しくなる。
彼は自然にわたしの手を握って歩き出した。
「青い鳥を探しに行こう」
「何それ」
急におとぎ話のお芝居でも始めたのだろうか。
「青い鳥なんているわけないじゃない」
聞こえるか聞こえないかの小声で呟いたわたしは、まだ彼の前で素直になれないままだった。