「ちょっと大げさじゃないか?」

ここで杏奈は遥翔にひとつの小さな疑問を投げかけた。

「ところで仕事から逃げるためとはいえどうしてこんな田舎の島なんかに来たの?」

「簡単に言っちゃえばなんとなくかな?」

「なんとなく?」

首を傾げる杏奈に対し更に続ける遥翔。

「そうなんとなく。なんとなく電車に乗ってなんとなく船に乗ったら、なんとなくこの島にたどり着いたって感じかな?」

「そんな事してどんな所に行くか分からないのに不安とかないんですか?」

「もちろん不安はあったけどわくわく感の方が強かったかな? たまにはいいじゃんあてのない旅っていうのも」

「あてのない旅かぁ、あたしはずっとこの島でしか育ってこなかったからかな? 知らない土地に行くの不安だなぁ?」

その時杏奈はシロがいた事を思い出した。

「あっ島の案内ですよね、ちょっと待って、この子家に帰してくるから。それに一度帰らないとママたちが散歩から帰らないって心配するし」

「それもそうだな、じゃあ一緒に行くよ」

「そう? じゃあ付いて来て下さい」

杏奈の家に向け歩いていると、彼女の顔からは思わずクスッと笑みがこぼれていた。

「なんだよ突然笑い出して、なんかおかしいか?」

遥翔の問い掛けにとてもうれしそうに不思議な思いで語りだす杏奈。