その怒りの矛先は杏奈が連れて来た事務所の社長である岩崎に向かった。

「岩崎さん、あなたはすでに娘が内定をもらっていて入社式目前だという事は知っていたんですか?」

「はい聞いています」

「それなのにそれを蹴ってまで娘にモデルになる事をすすめたんですか? モデルなんて仕事はいつどうなるか分からない不安定な職業ですよね、目の前に地道に安定した生活が待っていたのにあなたは娘にそんな生活を放棄しろと言ったんですか?」

「申し訳ありません。ですがお嬢さんは必ず売れます、それは間違いありません」

つい言い切ってしまった岩崎であったが、それでも確信がある訳ではなかった。

対して直樹は先の事など分かるはずないのに言い切ってしまう岩崎の事が信用する事ができなかった。

「どうして言い切る事が出来るんです、そんなの分からないじゃないですか! それに内定辞退の事だって経営者のあなたならわかりますよね、新戦力としてあてにしていた人材がギリギリになってこないとわかった時の会社側の気持ち。確かに新人ですから即戦力としては期待できないかもしれない。でも娘が入社するはずだった会社の様に会社の規模が小さければそれだけ新人にも早く戦力になってほしいと思うものじゃないですか?」