「ところで杏奈ちゃんさぁ、彼氏とはどうなったの? もし合格したら彼氏がいると何かと面倒だろ。誤解しないでね、彼氏が面倒って言っているわけじゃないんだ、ただもしも後々売れるようになった場合マスコミにかぎつけられるとね」

遥翔の問いかけに対しふと俯き寂しそうな表情を浮かべた杏奈であったが、すぐに顔を上げぎこちない作り笑顔を浮かべる杏奈。

「彼とは上京する前に別れました。あたしは別によかったんだけど彼の方が遠距離恋愛をしてまで付き合いたくなかったみたいで」

「そう、それは辛かったね」

「だけど遥翔さんも先走りすぎですよ。仮にまだあたしが彼とまだ付き合っていたとしてもオーディションだってまだ合格したわけではないし、それに受かったとしてもすぐに売れるとは限らないんですから今からマスコミがどうこう言ったって仕方ないじゃないですか」

「確かにそうだね。でももし本当に合格して杏奈ちゃんの名前が売れたらその彼氏もびっくりするんじゃない?」

「確かにそうかも、売れたらね」

ようやく杏奈の顔に本当の笑顔が戻ってきた後、しばらく車を走らせると杏奈の住むアパートの近くまで着いた。そこは都心からはすこし離れ、埼玉県にまでさしかかった所だった。

「えっとこの辺かな?」

「はい、そこを右に曲がったところです」

二人を乗せた車が小さな交差点を右に曲がるとそこにそれはあった。

「ここだね、着いたよ杏奈ちゃん」