「杏奈ちゃん今日はお疲れさま。車で送るよ、家どの辺?」

「ありがとうございます。でも遠慮しておきます」

「どうして? 今から家まで帰るの大変でしょ、遠慮しなくていいよ」

「でも遥翔さんみたいな有名な人の隣にあたしなんかがいたらバレたら大変なんじゃないの?」

「大丈夫! ばれなきゃ良いんだから。それに遅くなっちゃったし、これだけ暗くなっていたら分からないよ」

遥翔の言葉通りこの時すでに時刻は夜の八時を回っていた。杏奈は社長である岩崎に意見を求める。

「社長さん遥翔さんは大スターです、そんな人の車にあたしが乗っていたらまずいですよね」

ところが岩崎からは思いもしない応えが返ってきた。それは杏奈にとって嬉しい応えでもあった。

「確かにまずいけど杏奈ちゃん上京したばかりでこの辺の土地勘ないでしょ? 明るいうちならまだしももう暗くなってしまったから安全を考えたら仕方ないわ。まさかたった一度遥翔の車に乗っただけで写真にとられる事もないでしょう」

「分かりました、じゃあお言葉に甘える事にします。では社長さん、これで失礼します、今日は本当にありがとうございました」