翌年の春、東京での就職先もなんとか決まり上京した杏奈はアパートでの引っ越し作業に追われていた。

「ふうっこれでよしっと、取り敢えず今日のところはこのくらいで良いかな？　あとは少しずつ片付けていけば良いよね」

呟くように言うとコーヒーを淹れる杏奈。

実家から持ってきたお気に入りのガラステーブルにコーヒーの入ったマグカップを置き、使い込んで少し色褪せたピンクと白の水玉のお気に入りのビーズクッションに腰を下ろした杏奈は体を休ませつつゆっくりとコーヒーを飲んでいると、島での遥翔の言葉を思い出した。

「そう言えば遥翔さん上京したら連絡してって言っていたけどほんとにあたしなんかが連絡して良いのかな？　悪い人じゃないみたいだから変な事にはならないと思うけど、結局あれから連絡できなかったしあたしみたいな田舎者が遥翔さんみたいな大スターに連絡するなんてやっぱり気が引けるな？」

ひとり呟き悩んでいる内に時計の長針は一回りしてしまい、ついに決意した杏奈。

「とにかくメールだけしてみよう」

一言呟くとケータイを操作しメールを入力する杏奈。