「なに過去形になっているのよ、あたし達これからもっと幸せになるんじゃない」

「もう無理だよ限界だ! 自業自得だよな、こんな事になるんだったらもっと早くに医者に診てもらうんだった。じゃあな杏奈、僕みたいになるなよ。いつまでも元気でな、僕の様なやつでも最後に家族を作る事が出来てほんとに幸せだったよ、ありがとな。僕がいなくなった後いつまでも引きずるなよ、早く次の幸せつかむんだぞ」

まるで別れの言葉を言う様なその声はだんだんと弱くなっていき霞んでいった。

「何言っているの遥翔さん、最後の別れみたいに言わないでよ。涼しくなってきたからもう行こうか」

ところがその問い掛けに遥翔からの返事はなかった。

「遥翔さん? 遥翔さんねえ遥翔さんてばどうしたの? 起きて遥翔さん」

その後二度と遥翔は目を覚ます事はなかった。

そんな散り逝く命を、青空に浮かぶ淡い満月が悲しげに見守っていた。