「大丈夫とは言い切れないけど、でも自分が行きたくて行くんですからこの位我慢しないと。それに住めば都って言うじゃないですか、きっと住んでいるうちに慣れますよ」

そうは言うものの、この時の杏奈の表情にはわずかに不安の表情がうかがえた。

「そっかそうだよね、この位の勇気出さないとね」

ところがここで杏奈は俯いてしまい、小さな声で囁くように語りだした。

「でもほんとはあたし就職のために上京したい訳じゃないんです」

「じゃあどうして？」

小首をかしげながら尋ねる遥翔に対し、杏奈は自信なさげな声で語りだす。

「あたしモデルになりたいんです。ショーモデルなんて無理だろうしそこまでは考えていません。でもせめて女性誌の専属モデルとかになれたらなって、そんなの無理だろうけど」

「全然無理なんかじゃないよ、杏奈の努力次第で充分なれるよ」

「そうかな？」

「でもさ、上京するとなると彼氏はどうするの？」

「遠距離かなぁ？」

「大丈夫？　遠距離で会えない日が続いてもお互いの気持ちを保っていられる？」

「ケータイもあるしメールだってありますから。それでも自然消滅して別れるような事があったらあたし達もそれまでの二人だったって事です。それも仕方ないですよ」

この時の杏奈はどこか寂しげな表情をしていた。