その後何気なく遥翔の部屋をみまわした杏奈は、視線の先にあるものを発見した。

「あれ天体望遠鏡ですか?」

「あぁあれか? 実はそうなんだ」

「天体望遠鏡なんて持ってるんですね、遥翔さん星が好きなんですか?」

「別にそういう訳じゃないけど」

「じゃあどうして望遠鏡があるんです?」

首を傾げながら不思議そうに尋ねる杏奈。

「別に星が好きっていう訳じゃないんだ」

「星が好きなんじゃなかったら何であるんですか?」

再び首を傾げながら尋ねる杏奈に対し更に続ける遥翔。

「確かに天体望遠鏡には違いないんだけど星を見るというより月なんだ。確か杏奈ちゃんに初めて会った時にも言わなかったっけ? 僕は昼間の明るいうちに見える青空に浮かぶ淡く光る月だけは儚い感じがしてすごく好きなんだ。あれはそれを見るためだけの望遠鏡なんだよ」

「そう言えばそんな事言っていましたね。あの時見た月きれいだったなぁ?」

「だろ? うちは角部屋だからな、だから東側のベランダからよく見えるんだ。僕がこの部屋を離れないのもこれがあるからなんだよ。ただし見える時間が限られちゃっているからなかなか見る事が出来ないけどね、天気も良くないといけないし」