言えない想い、迫りくる受験。
プレッシャーがかかる毎日。
それでも、そんな日々をやり過ごして、勉強に打ち込む。
受験が近づいてきた、三年生の秋。
担任に呼び出されて、最終宣告を受けた。


『本当にこれで良いのか?』


二年生の時にされたのと、同じ質問だった。
あのときと同じ顔で先生は私に問う。
確実に近づいている私たちの将来。
それを形にするために、立ち向かっていかなくちゃいけない。
恋する気持ちも大切だけど、目の前にある受験も大切なことだから。

三年間を通して、先生は奇跡的にずっと担任として、私を見てきてくれた。
私がどういう性格で、どんな将来を見ていたいのか。
細かくはなくても、きっと大きな目で見守ってくれていたんだろう。
進学率を上げたい、ただそんな気持ちだけではないと思う。
先生、というのは、案外色んなところを見ているんだな、となんだか感心した。




そして私は一つ、大きな決断をした。



朝起きて、ご飯を食べて、学校に行く。
授業に打ち込みつつも、ちらりと梓や小泉くんを見て、また授業に戻る。
放課になれば、梓とくだらないおしゃべりをして、授業後はわからない問題を先生に質問しに行く。
家に帰ったら、着替えて、また勉強。
ご飯を食べて、お風呂に入って、少しリラックスして、また勉強。
キリがついたらベッドに入って、眠ればまた朝が来る。

毎日毎日、同じような日々を繰り返して。

いつの間にか、息は白くなり、吹きつける風は冷たさを増していた。

卒業式の日は、新たなる門出を祝うように、眩しい太陽に照らされていた。
式次第を見ると、あの桜が校舎と共に写っているのを見つけた。
そこにある桜は、入学の日から変わることなく、校舎を、学校を、私たちを見守ってくれていた。

梓たちは、受験のプレッシャーにもなんとか勝ちぬき、卒業を前にきちんと自分たちの進むべき道を決めた。
相変わらず、私も梓も、お互いの想いを口にすることはなく、小泉くんもその変わらない想いを梓に伝えることはしていないようだった。

式典が終わり、教室につくと、卒業アルバムが机の上に配られていた。
懐かしさに目を細め、パラリパラリとページをめくると梓がやってくる。

「……メッセージ、書いて?」

相変わらずの笑顔を携えて、アルバムを差し出された。

「私のも、書いて?」

そう告げて、梓と卒業アルバムを交換する。
今はまだ、何も書かれていないアルバムの最後のページは、これから、私たちの3年間の友情や思い出で、カラフルに彩られていく。


ペンのキャップをとり、梓に向けてメッセージを書く。


『大好きな梓へ。』


その書き出しとともに、懐かしく、苦しく、輝いていた私たちの過ぎ去りし日々を振り返る。

『いつもまっすぐにぶつかっていく梓を、とてもうらやましく尊敬してるよ。
卒業したら、別々の道だけど、これからもずっと親友でいてね!』

一年半の私の片思い。
誰にも言えずにいた、この気持ちにも、卒業する。

それは私の、第一歩。

「梓、私ね、小泉くんの事好きだったよ」

書き終えた卒業アルバムを手渡しながらきっぱりと言う。

「梓が、小泉くんの事好きなの知ってたよ。先輩に振られて、恋に臆病になってたことも。私も、梓の気持ち知ってたし、性格もわかってるつもり。だから、何にも言えなかった。梓にも誰にも言えなくてずっと苦しくて、でも……。今なら言える、かな」

ざわざわと騒がしい教室では、誰も私たちの話など聞いていない。

「小泉くんが、好き…だった」

にっこりと笑って言うと、梓の瞳が少し震える。

「そんな顔、しないの!梓の事、大好きだよ?笑った顔が」

ポンポン、と頭をなでると、ふにゃっと泣きそうな、それでも温かい笑顔を見せてくれた。
梓から、アルバムを受け取る。

「さ、他の人にも書いてもらおう!」

色々な人のもとへと足を運んではメッセージを書いてもらう。

私の受験はまだ続く。
けれど、今日この時ばかりは。
少し位、この感傷に浸ったってバチは当たらないだろう。

まっさらだったアルバムの最後のページは、あっという間にカラフルに彩られて埋め尽くされていく。

本当は、小泉くんにも書いてもらいたいけれど、今はちょっと無理。
小泉くんをチラッと見ると、眠そうに眼をこすりながら鞄を掴んで帰るとしている様子が目に届く。
まだ、気付いていない様子の梓。

「梓!行っちゃうよ?」

梓がキュッと、何かを決心するような顔で見つめてくる。
頑張れ、そのエールをもって小さく、こくんと頷くと、梓が小泉くんのもとへと駆け寄った。


「あ、小泉くん!書いて?」

梓の声が聞こえて、本当に、私のこの想いとも卒業だな、と、どこかに安堵ともいえるような気持ちがわく。


寂しくて、でも、温かい。


ガラリと開く扉から出ていく小泉くん。
まだまだ、教室内は騒がしくしているから、それに気づいた人はあまりいない。


けれど……

そんな中、梓が慌てて荷物をまとめて

「桜ちゃん、ありがとう!!」

そう言い残して、教室を出て駈け出した。
私は、笑顔でそっと見詰めていた。

走り出した梓の背中を―――…。



パラリ、みんなからのメッセージを確認する。
あ、先生にも、書いてもらいたいな。そんなことを思いつつ。

カラフルなみんなからのメッセージ。
その中の一つ。
堂々と大きな文字で書かれたメッセージ。



『大好きな、桜ちゃん。
あの桜みたいに、凛と立つ、その姿にずっとずっと、憧れていました。
これからも、ずっとよろしくね!!』


頬に何かが、伝った気がした。


*あの頃。/完