「好きな人ができたんだ」と、他の誰でもなく、梓に相談したかった。
梓に相談できなくて、それなら他の誰かに打ち明けるつもりもない。

二年生になったとき、初めて同じクラスになった梓。
記憶の隅に、入学式の日のことを覚えていた私は、迷わず梓のもとへと話しに行った。

「くまのキャラクターが好きなの?」

取っ掛かりはなんでもよくて。
目についたことで話しかけた。
ビックリして目を丸くしていたけど、すぐにふんわりと笑顔になってその日の内にお互いに連絡先を交換した。

二年生の時のクラスは、グループなんて関係なくて、余計なしがらみもなくて私たちが仲良くなるには時間もかからなかった。

思った通りの女の子。
明るくて、元気で朗らかで。
笑顔が似合う、真っすぐな。

そして今では、親友だと思っている。
その親友に話せないなら、他の誰にも相談なんてできっこない。

梓と行動していると、どこからかくる視線を感じていた。
その先にあったのは、大きな身体を小さく丸めている小泉くんの姿。
ふてくされるように、机に頭を預けて気付かれないように静かに梓を見ていた。


当時の梓は、好きな人がいて、静かにじっと見守っていた小泉くんはもしかして気付いていたのかもしない。
報われない片思いをしていた小泉くんが何だか気になって、いつしか自然と目で追うようになっていた―――。


だけど、小泉くんの想い人である梓にこんな相談をできるはずもなく。
時間はただ流れて、私たちは変わらずの関係のまま。


だけど、歯がゆいような、もどかしいような思いを抱えているのは、多分、私だけ。


気になれば気になった分だけ、小泉くんを見てしまう。
見てしまえば見てしまう分だけ、小泉くんの気持ちがわかってしまう。

切なくて、苦しい。
そう、確かに、この時から私の片思いは、今もなお立ち止まったまま……



桜の木に生い茂る葉が、柔らかな風を受けて、さわさわと鳴る、17歳の初夏―――…。