「ママのは、よくわかんねぇ」
塩だったり、なんかスパイシーだったり。唐揚げは何度か作ってくれたけど、毎回ちがう味だったと思う。だから、なにがママの味なのかよくわからない。真っ先に思い浮かぶ味は、まだない。
「ふぅん」
メグはその先を言うわけでも、訊いてくるわけでもなく、窓の外に視線を移した。
外は随分と暗くなっていて、窓ガラスにはメグの表情がはっきりと映っていた。
「そんな顔すんなって」
すぐ不機嫌になるくせに、なぜ自分から話題にするんだ。
「……だって、」
なにかを誤魔化すように下唇をきゅっと噛んで、抜き出したポテトを俺の口元に差し出した。
メグの簡単に折れてしまいそうなほっそりとした手首を掴み、ポテトをくわえる。そのまま前歯で噛みちぎり、行き着いた先にある指にキスをした。
驚いて見開いた目が、ゆっくりと細められる。
「へんな心配しなくていいって、いつも言ってる」
「……うん」
誰にどう思われようと、俺はメグのことが好きだった。
「汐音がいてくれたらそれでいい」
「あたしには汐音が必要なの」
傷口を絆創膏で覆うような言葉をくれるから。
「汐音がいないと生きていけない」
そんな言葉を平気で口にしたりもするし。
誰かにとっては「息苦しい」と感じるものでも、俺にとっては魔法の言葉だった。
メグがいてくれたらそれでいい。
俺にはメグが必要なんだ。