「でもさ、でもさ。汐音はまったく相手にしないわけだし。そんな心配することなくない?」
 木崎がヘラヘラッと笑顔をつくる。
「汐音のことは信じてるよ?」
 俺を見上げたメグはにっこり微笑んだあと、でも気分わるいじゃん、と唇を尖らせた。
 そんなメグの頭をひと撫でする。メグは嬉しそうにエヘヘと笑い、俺の左手を握った。

「じゃあ、またね」
 手を振るメグを乗せた電車がゆっくりと動き出す。
「あーっ、もーっ!メグと待ち合わせしてたなら言えよな」
 はぁぁぁ、と大きく息を吐き出した小倉。
「死ぬかと思った」
 木崎は大袈裟なくらいに胸をさすっている。
「そんなの知らねぇよ。勝手に連れてくるおまえが悪い」
 電車を見送り改札を目指す。
 ここから五駅先がメグの通う高校の最寄駅だ。
 いつも一本早い電車に乗るメグが、おいしいお菓子を見つけたからあげるね、と。わざわざ俺たちが乗る電車の時間に合わせると知ったのは、家を出る直前のこと。それだけのことだ。ふたりに報告するようなことでもない。

「だけど。ほんとすげぇよ。ほんとに愛されてんのな」
 制服のシャツの袖を捲り上げながら小倉が苦笑いする。
「でもさ。汐音のことは信じてるよ?とか言ってるけど。正直、どうなのかなぁって思う」
 木崎が肩をすくめた。
「悪いけど、俺はムリだな。メグとは付き合えない」
 小倉の言葉に木崎も首を縦に振った。