俺たちの住む街は都会ではない。けど、ものすごく田舎ってわけでもない。県庁所在地のある市に行くまでは、急行電車で約三十分のところに位置するのだけど。
通勤通学時間帯の車内はそれなりに混んでいて、メグと同じ電車に乗るときは、サラリーマンや男子学生からメグを守るのが俺たちの役目だった。ドアのすぐ横を陣取って、メグを囲むように立つ。
「おぐのすけ。またやったね」
おぐのすけ、とは小倉の愛称。小倉隆之介だから、おぐのすけ。
「メグがさ、」「オグがね、」会話の最中に似たような呼び名が飛び交うのは紛らわしい、ってことでそう呼ぶようになった。因みに木崎は、木崎直登だから、ザキオ。ただこれらはメグが使ってるだけで。俺たちは「小倉」だし、「木崎」と呼んでいる。
「次やったらグーで殴るからね」
握りこぶしを作ったメグがそれを小倉の腹に当てた。
「いや、だってさ」
「だって、じゃないよ。毎回毎回、懲りずにさぁ」
そう。小倉が俺のところに女の子を連れてきたのはこれが初めてじゃない。今までに何度もあって、そのうちの何度かはメグにバレている。
中学生を連れてきたのは今回が初めてだったけど。
「ごめん。もうしない」
小倉がそう言うけど、メグだってバカじゃない。嘘だ、と小倉を睨みつける。