「例のカノジョとはうまくやってんの?」
朝からヘラヘラと、気持ちのわるい笑顔で訊いてくる木崎の左頬をグーで押す。
なにも答えなければ、それはそれで面倒くさいことになる。まぁ、とか、それなりに、とか。とりあえず返しておけばそれで満足するようなやつだった。
「そっかそっか。それは良かった」
朝メシがわりのゼリー飲料を、なんとなくイケメンふうに飲んでみる、などと訳の分からないことを言いながら小さなキャップを回す。
朝からトーストやらスープやら、目の前に並べてもらえる俺は幸せなのかもしれない。
まぁ、ブロッコリーとトマトのサラダには手をつけなかったのだけれど。
「おっはよ」
改札のすぐそばで立っていると、いつも時間ギリギリになって現れる小倉が他校の女子生徒を連れて登場した。
ギリギリなのは時間に関してだけでなく、まぁ、いろいろなことでギリギリなやつだった。
「ギリ、セーフ」
小倉の口癖。今日もそう言ってニッと笑う。
「知らね」
何がセーフなのか、あえて訊くことはしない。小倉に置いていた視線を、改札を目指す人の群れに移した。
ついこの間も、女の子と一緒にいたことが彼女にバレて喧嘩したと言っていた。破局はなんとか免れたため、「ギリ、セーフ」らしい。