「お茶、入れるね。飲むでしょう?」
 平井さんは返事を待たずに食器棚の扉を開けた。グラスをふたつ取り出し麦茶を注ぐまでの行程を、その場に突っ立ったまま、ぼんやりと眺めていた。
「はい。どうぞ」
 麦茶の入ったグラスを平井さんはダイニングテーブルに置いた。
 一緒に、ってことか。
「座らない?」
 静かに引いた椅子に腰を下ろし、俺を見る。
 のどはカラカラに渇いていた。せっかく入れてくれたんだし、と言い訳っぽく自分に言い聞かせると、平井さんと向かい合うようにして腰を下ろした。
 麦茶を、平井さんはひとくち飲み、俺は一気に飲み干した。
「よっぽどのどが渇いてたんだね」
 他にも理由があることはわかってるはずなのに、そう言って小さく笑う。
 
 のどは潤った。
 空っぽになったグラスを見つめ、いつ立ち上がろうかと考える。
 左の足先を無意識のうちにモゾモゾと動かしていたことに気づくと、その動きは自然と右の足先に伝染し、足先の振動は膝から徐々に上へ上へと伝わっていった。それならその勢いで、と腰を浮かせようとしたとき、平井さんが、ごめんね、と謝った。
「……なにが?」
 立ち上がるタイミングを逃してしまった俺は、視線をそっと前方に向ける。
「いろいろと。戸惑うことばかりでしょう?たくさん困らせちゃったよね。……ごめんね。大人の都合で振りまわしちゃって。……ごめんね」
 視線をグラスに添えた左手に置き、ゆっくり話す。