「新しい生活には慣れましたか?」
 手にしていたシャープペンシルをマイク代わりにして俺の口元に向けたメグ。
 なんだその古くさい表現は、とメグの手をそっと払う。
「心配してるんだよ」
 口に出さずともメグがそう思っていることくらいわかる。
「慣れてほしい?」
「……それは、……うん」
 こくりと頷いたメグの額を指で弾いた。
「うそつき」
 父親の再婚話をした日からメグは気にしていた。そのことに気づいたのは、つい最近のこと。
 俺が「女の人と一緒に暮らす」ことが気に入らないのだ。
 父親の再婚相手で、俺の母親になる人。十も歳の離れた人、なのに。
 メグの中では違っていた。
 血の繋がらない、十しか歳が離れていない人。
「汐音ママ」と呼ぶのは、そのことを植え付けるため。俺と、平井さん。そして自分自身に。

「おばさん、いつ帰ってくる?」
「えぇっと。一時間くらい、したら?施設の人と話し込んでたら、もう少し遅くなるかも」
「ふぅん」
 メグの手からシャープペンシルを抜き取る。
「汐音、」
 ぱちりと瞬きしたメグの髪を撫でれば、ゆっくりと染まる頬。
「心配しなくていいよ。俺は平気」
「……うん」

 三人での暮らしがスタートしてから一週間。昼間はこうしてメグの家に来たり、小倉や木崎と遊んで時間を潰す。
 夜は夜で、引っ越し後の荷ほどきを口実に自分の部屋にこもる。
 できるだけ関わらないようにしていた。
 あのふたりの時間を邪魔しないように。自分の存在を消すように。