扇風機の風にあたりながら、どんな言葉を聞かされるのか待っていた。
 父親に背中を向けているから父親の表情はわからない。父親も、俺がどんな表情でいるのかわからないだろう。
「そんな悲しいこと言うなよ」
 父親の声が低く響いたせいで、握りしめていた拳に自然と力が入る。
「もう、家族なんだから」
 父親の言葉は、わずかな風でも簡単に吹き飛ばされそうなくらい薄っぺらいものに思えた。
 大人はいつもそうだ。その場しのぎの言葉を平気で口にする。
 良かれと思ってのことだろうけど、それが逆に深い傷になることだってある。

「嬉しいんだよ。おまえと一緒に居られることが」
 父親の、あの時の言葉を素直に受け取ることはできなかった。そんな単純なものではないだろう、と。
 実の母親ですら、三年しか持たなかった。
 きっと最初だけ。今だけ。いつか、俺の存在を鬱陶しいと思うときがくる。

「……もういいって。邪魔だし、」
 小さな本棚から次々と漫画を引っ張り出し、ダンボールに詰め込む。
「ダンボールが足りなきゃ、言えよ」
 ふぅ、と小さく息を吐き出した父親が一階へと降りていった。
 割れそうなほど頭はガンガンと痛み、右の耳はキーンと鳴り出す。
 このところ、ぐっすり眠れないせいだ。
 吐き気がするよ。