メグの母親は世話好きだ。
メグと付き合いはじめた頃、俺に母親がいないことを知ったおばさんは、夕飯を食べていくことを勧めてきたり、取れかけたシャツのボタンをつけ直してくれたりと、なにかと世話を焼いてくれた。
俺にはばあちゃんがいるし。母親がいないことは「日常」であったから、あまり深く考えることはしてこなかった。だけど。
「汐音のことが嫌いになったわけじゃないんだよ」
幼い頃、周囲の大人にそう聞かされるたび、母親が出て行った原因は自分にあるのだと思ってしまった、あのときの感覚と似ている。
おばさんから優しさを押しつけられるたびに、自分は可哀想な人間なのだと思わずにはいられなかった。
「ごめん。おばさんに、ありがとうって言っておいて」
拗ねたメグの頭を撫でる。
おばさんに優しくされることが苦手なだけで、おばさんのことが嫌いなわけではない。
優しさを上手に受け取ることが苦手な性格だから、押しつけられる優しさにはどんな反応を見せることが正しいのか、と。戸惑い、悩んでしまうんだ。
「映画、行けなくてごめん」
「ううん。気にしないで。ちーさんの腰、早く良くなるといいね」
「じゃないと困る。ずっと手伝うなんて、あり得ないから」
「そうだよね」
あれこれ言わなくたって察してくれる。メグがそうなのだから、父親や、ばあちゃんは当然わかっているはずだ。
俺が店に寄りつかない理由を。
平井さんは、どうなのだろう。もし察していたとして。それなのに、あの笑顔を俺に見せたとしたなら。
「あり得ないだろ、そんなの」