店内が徐々に賑やかになっていく。
学校帰りの学生が次々に入店してきては、どうでもいいようなことで盛り上がる。あのゲームがどうだとか、隣のクラスの誰と誰がどうなった、とか。
親の再婚話をして彼女に慰められていた俺は、場違いな人間なのかもしれない。
「そろそろ行こう」
飲みかけのドリンクを手に席を立つ。トイレに行くというメグのリュックを預かり、入口付近で戻ってくるのを待つことにした。
ドアが開き、入ってきたのは女子高生三人組。それぞれに、頭のてっぺんからつま先まで見られる。ふと視線を移せば、オーダー待ちの大学生風の女子二人組に、何度か振り向かれてはコソコソ話をされる。
ふぅ、と息を吐き出して、手にしていたラテを口に含む。あぁ、甘い。ぺろりと舌を出したところを色白な店員さんに見られてしまった。
「ごめんなさい。すみません」
声のした方を見れば、ひとりの女性がベビーカーを押しながら列の横を通りづらそうにしていた。座席とカウンターとの間にできた人の列は、出口を目指すその人にとって障害物でしかなかった。いくら使い慣れていたとしても、片手にカップを持っていればベビーカーも思うように動かせないだろう。
鬱陶しそうに一歩横にずれる女性客たちに魅力なんてものは少しも感じられない。
「あっ、…ありがとうございます」
どうぞ、くらい言えたなら格好よかったのかもしれない。両手の塞がった女性はドアを開けた俺に向かってぺこりと頭を下げた。