「そっか」


ほんの十秒とかそのくらいの時間だったと思う。


英介の言葉に救われるようにして舞は顔をあげた。


そこには笑顔の英介が立っていた。


その笑顔にチクリを胸が痛む。


きっと英介はとてつもなく優しい人だ。


付き合えば不安なんてなく、安心した日々を過ごすことができるだろう。


だけど……と、舞は思う。


それでは自分の気持に嘘をつくことになり、英介に対しても失礼なことをになってしまう。


紳士に向き合ってくれる英介には、本当の気持ちを伝えないといけない。


「青木君のことが好き?」


聞かれて、舞の頬がカッと熱くなる。


それは肯定しているも同然だった。


生理現象をごまかすことはできない。


「そっか。青木君はすごくいいヤツだもんな。わかるよ」


「……ごめんなさい」


「謝らないで。君は悪いことはなにもしてないんだから」


英介はそう言うと、笑顔を残して教室を出ていったのだった。