「やったぁ! オレ、大吉だ」
初詣客で賑わう神社の境内。尚《なお》君の声が耳に飛び込んでくる。同じ高校を目指すクラスメートの一人。家も近くて小さい頃は一緒に遊んだりもしたけど、最近では目で追うだけの人。
わたしは自分の手にある小さな紙に目を落とす。
糊付けされた部分を破かないようにそっと開き、折りたたまれた紙をくるくると伸ばしていく。
「凶」
大吉は引いたことがない。その代わり凶も引いたことはなかった。
可もなく不可もなく。大きな幸運もなければ、悲嘆にくれるような不幸もない。そんなわたしが引いたおみくじは、お正月早々、がっくりと肩を落とさずにはいられないものだった。
別にそれで今年一年が決定付けられるものでもない。ほんの運試し。すぐに忘れ去ってしまう程度の些末な出来事。のはずだった。その時そこに尚君がいなければ。
参拝を終えて立ち寄ったお店で冷え切った体を温めようとおしるこを頼んだ。じんわりとあたたかいお椀を両手で包み込む。
狭い店内は混みあっていた。不意にドンと背中を押され、持っていたお椀が手から膝の上に落ち、床に跳ねてカランと音を立てた。