ミナモが漕ぐ。
舟を漕ぐように
リンネの背中で
ペダルを漕いでいく。

漕いでいけば
前から後ろへと景色も
元カレの制服も風に流れていく。

3月の風と4月の雨が、、
新緑の花を咲かせるっていうが
リンネには
ミナモが作る風が
新しい航路へと
自分を後押しする風に感じた。

だからもう、
元カレ校の制服を見ても
リンネの胸は
すきま風では 痛まない。


元カレ。

ありがちに
進学塾で知り合った彼と
付き合い始めた
のは
高校受験が終わってすぐの
寒凪冬。

女子の帰り道が
危ないとかが本気か別に、
送る男子達の1人に

気が付けば、隣に彼がいるだけで
暗い秋夜の道が
恋心と比例して好きに
なっていた。

合格報告する塾の外、
然り気無く
告白された細雪の日が

リンネの人生の春で
思いがけず両思いの、
初めての
カレシ。

医学部を目指すカレシの
有名男子校は
同じ駅なのを

『遠距離じゃなく学外恋愛。』
とか豪語しつつ、

行事は互いの学校へ行って、
クラスメイトに紹介したり
あいさつしたり。

金曜日の放課後は待ち合わせして
夕方だけのデート。

もちろん医学部のある大学に
カレシは進学希望、
リンネは美大。

それでも3年までは相思相愛。
リンネは
大学もその先もめぐる季節を
過ごす気でいた
4ヶ月前の秋。

高校最後の創作展にカレシの
姿は見えなかった。

『マイlover、待たせたな!』

1人で回るリンネの肩に、
いきなり後ろから 自然に腕を
回してくるミナモ。

いつもは、そんな事をしない
ミナモに、

『や、ミナモ!何?』

空天井の渡り廊下は
紅葉で赤く染まって
その物悲しさに
リンネが 心に涙を溜め込んで
振り向いたら

『えー、マジ?
リンネじゃん。彼女と
間違えた。後ろやと似てんな』

さっきのカレシ調子のミナモが
真面目な眼差しで
間違えをリンネに告げる。

確かにミナモの今カノも
背が低めのウェーブかかった
ロングヘア。

『タイミング悪い、ミナモ!
今、傷心なんだから、あっち
行ってよ!!リア充野郎!』

それでも間違いといえ
今、バグなんかして欲しくないと
ミナモより下からリンネは
視線でも訴える。

『何、別れたん?』

リンネの頭に
色づいた葉が
カサリと降ってくる。

『 予備校で一緒の子と付き合う
んだって!志望校も同じとか
いって!もういいでしょ!』

ミナモがそれを、
指で摘まんでリンネに見せる。

『いけるか?』

『ほっといてよ!あと、彼女に
マイloverとか、寒いからね』

リンネの髪に落ちた葉を
茶化すかに
目の前でクルクル弄ぶミナモ
から
いまだ回される腕を
振り払って
リンネは
茜葉が舞う渡り廊下を
逃げ出した。

秋の創作展になれば、
クラスメイトも
カップル回りで、

進路や、目下のハロウィンに、
クリスマスの計画決めで
話華やぐ。

本来ならば
カレシと別れた愚痴も
何時ものごとく相談するところ。

逃げたのは、

ミナモも
後ろ姿が似てる彼女と連れだち
これからを決めるだろうに
邪魔はできない。

そこまで小悪魔になれない
リンネは

結局
創作展中
デッサン室の隣、
担任室こもる
教師相手にワンワン泣きに泣いて
傷心の鬱憤を
下手くそな珈琲で
飲み干した。

それから
金曜日も受験に向けて
クラスがデッサン
三昧となり
結局ミナモは
後ろ姿彼女にフラれたのが

4ヶ月前の秋にあった事。

それさえ今となれば
走馬灯で、
元カレの制服なんかと一緒に
自転車の後ろへと
タイムマシンの速さで通り
過ぎて、

リンネの高校生活を鮮やかに
した。