「ああ、萩原さんね。萩原さんって部活とかやってんの?」

私は息が止まりそうなほど緊張しながら、一生懸命平静を装って答える。

「何も、入ってない」
「あ、同じ、同じ。俺も帰宅部ー」

その顔を見ていないのに、彼の笑っている顔が想像できる。
想像しているうちに、本物の笑顔を見たくなって、私はつい隣の席を向いてしまった。

「あ」

思わず短い声がもれる。隣の彼が私を見ている。
慌てて顔をそむけようとした私に、彼は嬉しそうにこう言った。

「萩原さん。やっとこっち向いてくれた」

そして私の前に、想像の中じゃない、本物の彼の笑顔が広がった。