(俺じゃない。俺の事じゃない)
内心激しく冷や汗を流しながら、黒髪紅眼の少年――エルヴィン・アーネストは目の前の金髪の巨乳美女を見上げた。バクバクと嫌な音を立てる心臓を宥めるように、胸に手を置く。ゴクリ、と大きく喉が鳴った。
そんなエルヴィンを他所に、美女は聖母のような頬笑みを浮かべて手を広げる。
「ようこそいらっしゃいました。〝異世界の勇者様方〟」
そう、エルヴィン・アーネストは元勇者である。
しかし、この世界の、が付くが。
エルヴィンの経歴を簡単に語ると、一昨年に発生した『第六天災魔王』を打ち払った5人の勇者の1人である。勇者の中では最年少の16歳ーー当時14歳だったが、この世界最強の一角を担っている勇者。戦闘力に関しては、世界中が保証しているようなものである。
だがしかし――、
(や、やべえ……!全然状況が掴めねえ……!異世界とか言ってるけど、どう考えても俺の住んでる世界っぽくね?あの姫とかなんか見た事ある気がするしな……。思い出せないけど)
エルヴィンは戦闘力ばかりを磨きすぎた脳筋――つまりは、馬鹿なのであった。
(こーゆーのは、元勇者パーティーに詳しい奴がいたんだよなあ……。あとで聞いてみるか)
そんなお姫様っぽい人が〝異世界の勇者〟とか言い出したのである。わざわざこの世界の勇者ではなく、異世界から呼び出して。
(しかし…、なんで異世界の人間でもない俺がこんな所に呼び出されたんだ?)
沈黙したまま、エルヴィンはチラリと周囲を見渡した。細かい模様のついたレースを沢山使ったふわふわのドレス着た金髪巨乳美女の奥に、でっぷりと太った中年男が座っている。そして、その周囲に兵士が等間隔に整列。
肝心の異世界の勇者は5人。エルヴィンを含めて6人。茶髪と黒髪系が多い中1人だけ金髪がいた。
「わたくし達の願いはただ1つ。勇者様方に魔王を倒して欲しいのです」
「魔王……」
異世界勇者の誰かが、独り言のようにポツリと呟いた。
(……それ、2年前の俺達元勇者に言おうよ。2年しか経ってないんだから、現役引退とかしてねえよ。みんなバリバリ力持て余してるよ)
むしろ持て余しすぎて困っている、とエルヴィンは内心突っ込みを入れる。勿論、エルヴィンも現役バリバリ。頭よりも体を鍛えまくっている。
(このタイミングで異世界勇者召喚……怪しすぎるな)
固まったままだった異世界勇者達の1人が、1歩だけ前に進み出る。茶髪の優しげな見た目の少年。まだエルヴィンとそう歳は変わらないくらいだった。
「3つ程、確認させて欲しいです」
「なんでしょうか?」
姫が応じると、茶髪の少年は指を三本立てた。
「まず1つ目、僕らは魔王を倒したらちゃんと元の世界、元の時間に帰れるのか?2つ目、最後まで僕達に金銭面と肉体面でサポートをしてもらえるのか?最後に3つ目は――」
茶髪の少年はニコリ、と人の良さそうな笑みを浮かべた。
「あなた方のお名前を教えてください。僕はハラナカ リョウキです。……まずはお互いに自己紹介から始めませんか?」
エルヴィンは一瞬で悟った。
――コイツ、頭良いタイプだ……!と。
異世界の勇者はそれぞれ金髪の少年がニシキ イタル、長い黒髪の清楚系少女がキタサト チハル。黒髪の眼鏡の少年がアズモ キキョウ、茶髪のボブの少女がインナミ ルカ。
(5人もいると名前覚えられねえな……)
オマケにエルヴィン以外は全て同郷の人間……、というか、友達だったらしい。知り合いがいるという安心感からか、動揺すらしていない。むしろ冷静過ぎる。なんなら、この世界に住んでいるエルヴィンよりも。
こっそりとエルヴィンは隣にいた少年――、アズモ キキョウに尋ねた。
「なあ、みんな随分と冷静だな?」
そして、異世界の勇者の代表者のように堂々と振る舞う、ハラナカ リョウキを目線で示す。
「ハラナカ リョウキなんて、めちゃくちゃ冷静に対応してるし。相手は一国のお姫様だぞ?」
先程、自己紹介した姫っぽい人は、やはり一国の姫だった。グローリア姫、という名前らしい。
インナミ ルカは軽く肩をすくめる。彼もまた、緊張の欠片すら見当たらない態度だった。
「ああ。緊張していない訳じゃあ無いだろうが――、まあ、こういうのはテンプレだからな。よくある王道の話だ」
「テンプレ……?」
「エルヴィン……、だったか?あんまりこういった異世界転移系とか、RPG系とかのアニメやゲームを見てないのか?」
「異世界転移系?あーるぴーじー系ゲーム?」
オウム返しをしたエルヴィンに、アズモ キキョウは苦笑した。
「なんだ。あんまりサブカルチャー系は知らないのか。そうだな……」
アズモ キキョウはしばしの間顎に手を当て、考え込むような素振りをした後、眼鏡のフレームをクイッと押し上げた。
「要するに、僕達はVRで異世界に来て、勇者と呼ばれて何度も世界を救ってきた、って事だ」
そう、その異世界勇者のアズモ キキョウ。転移前に他の4人のゲーム仲間とVRのβテスト版を行っていたせいか、未だにこの世界の事をバーチャル世界だと思い込んでいるのである。それどころか、
(エルヴィンは外国プレイヤーか……?僕達のグループに紛れ込んでしまったのは、β版故のバグか……?しかし、言語が通じるのは助かるな)
エルヴィンがこの場にいること自体もバグとして捉えていた。
「シュミレーション……?!」
エルヴィンはギョッと目を見開いた。
(異世界では、勇者派遣が当たり前の光景になっている……?!……いや、勇者を簡単に派遣出来るという事は、異世界は化け物ばかりの世界なのか……?!)
勿論、ゲームの世界で、というのが前に来る事は、エルヴィンの知らない事である。
(と、取り敢えず……、元勇者仲間に報告しねえと……!)
内心激しく冷や汗を流しながら、黒髪紅眼の少年――エルヴィン・アーネストは目の前の金髪の巨乳美女を見上げた。バクバクと嫌な音を立てる心臓を宥めるように、胸に手を置く。ゴクリ、と大きく喉が鳴った。
そんなエルヴィンを他所に、美女は聖母のような頬笑みを浮かべて手を広げる。
「ようこそいらっしゃいました。〝異世界の勇者様方〟」
そう、エルヴィン・アーネストは元勇者である。
しかし、この世界の、が付くが。
エルヴィンの経歴を簡単に語ると、一昨年に発生した『第六天災魔王』を打ち払った5人の勇者の1人である。勇者の中では最年少の16歳ーー当時14歳だったが、この世界最強の一角を担っている勇者。戦闘力に関しては、世界中が保証しているようなものである。
だがしかし――、
(や、やべえ……!全然状況が掴めねえ……!異世界とか言ってるけど、どう考えても俺の住んでる世界っぽくね?あの姫とかなんか見た事ある気がするしな……。思い出せないけど)
エルヴィンは戦闘力ばかりを磨きすぎた脳筋――つまりは、馬鹿なのであった。
(こーゆーのは、元勇者パーティーに詳しい奴がいたんだよなあ……。あとで聞いてみるか)
そんなお姫様っぽい人が〝異世界の勇者〟とか言い出したのである。わざわざこの世界の勇者ではなく、異世界から呼び出して。
(しかし…、なんで異世界の人間でもない俺がこんな所に呼び出されたんだ?)
沈黙したまま、エルヴィンはチラリと周囲を見渡した。細かい模様のついたレースを沢山使ったふわふわのドレス着た金髪巨乳美女の奥に、でっぷりと太った中年男が座っている。そして、その周囲に兵士が等間隔に整列。
肝心の異世界の勇者は5人。エルヴィンを含めて6人。茶髪と黒髪系が多い中1人だけ金髪がいた。
「わたくし達の願いはただ1つ。勇者様方に魔王を倒して欲しいのです」
「魔王……」
異世界勇者の誰かが、独り言のようにポツリと呟いた。
(……それ、2年前の俺達元勇者に言おうよ。2年しか経ってないんだから、現役引退とかしてねえよ。みんなバリバリ力持て余してるよ)
むしろ持て余しすぎて困っている、とエルヴィンは内心突っ込みを入れる。勿論、エルヴィンも現役バリバリ。頭よりも体を鍛えまくっている。
(このタイミングで異世界勇者召喚……怪しすぎるな)
固まったままだった異世界勇者達の1人が、1歩だけ前に進み出る。茶髪の優しげな見た目の少年。まだエルヴィンとそう歳は変わらないくらいだった。
「3つ程、確認させて欲しいです」
「なんでしょうか?」
姫が応じると、茶髪の少年は指を三本立てた。
「まず1つ目、僕らは魔王を倒したらちゃんと元の世界、元の時間に帰れるのか?2つ目、最後まで僕達に金銭面と肉体面でサポートをしてもらえるのか?最後に3つ目は――」
茶髪の少年はニコリ、と人の良さそうな笑みを浮かべた。
「あなた方のお名前を教えてください。僕はハラナカ リョウキです。……まずはお互いに自己紹介から始めませんか?」
エルヴィンは一瞬で悟った。
――コイツ、頭良いタイプだ……!と。
異世界の勇者はそれぞれ金髪の少年がニシキ イタル、長い黒髪の清楚系少女がキタサト チハル。黒髪の眼鏡の少年がアズモ キキョウ、茶髪のボブの少女がインナミ ルカ。
(5人もいると名前覚えられねえな……)
オマケにエルヴィン以外は全て同郷の人間……、というか、友達だったらしい。知り合いがいるという安心感からか、動揺すらしていない。むしろ冷静過ぎる。なんなら、この世界に住んでいるエルヴィンよりも。
こっそりとエルヴィンは隣にいた少年――、アズモ キキョウに尋ねた。
「なあ、みんな随分と冷静だな?」
そして、異世界の勇者の代表者のように堂々と振る舞う、ハラナカ リョウキを目線で示す。
「ハラナカ リョウキなんて、めちゃくちゃ冷静に対応してるし。相手は一国のお姫様だぞ?」
先程、自己紹介した姫っぽい人は、やはり一国の姫だった。グローリア姫、という名前らしい。
インナミ ルカは軽く肩をすくめる。彼もまた、緊張の欠片すら見当たらない態度だった。
「ああ。緊張していない訳じゃあ無いだろうが――、まあ、こういうのはテンプレだからな。よくある王道の話だ」
「テンプレ……?」
「エルヴィン……、だったか?あんまりこういった異世界転移系とか、RPG系とかのアニメやゲームを見てないのか?」
「異世界転移系?あーるぴーじー系ゲーム?」
オウム返しをしたエルヴィンに、アズモ キキョウは苦笑した。
「なんだ。あんまりサブカルチャー系は知らないのか。そうだな……」
アズモ キキョウはしばしの間顎に手を当て、考え込むような素振りをした後、眼鏡のフレームをクイッと押し上げた。
「要するに、僕達はVRで異世界に来て、勇者と呼ばれて何度も世界を救ってきた、って事だ」
そう、その異世界勇者のアズモ キキョウ。転移前に他の4人のゲーム仲間とVRのβテスト版を行っていたせいか、未だにこの世界の事をバーチャル世界だと思い込んでいるのである。それどころか、
(エルヴィンは外国プレイヤーか……?僕達のグループに紛れ込んでしまったのは、β版故のバグか……?しかし、言語が通じるのは助かるな)
エルヴィンがこの場にいること自体もバグとして捉えていた。
「シュミレーション……?!」
エルヴィンはギョッと目を見開いた。
(異世界では、勇者派遣が当たり前の光景になっている……?!……いや、勇者を簡単に派遣出来るという事は、異世界は化け物ばかりの世界なのか……?!)
勿論、ゲームの世界で、というのが前に来る事は、エルヴィンの知らない事である。
(と、取り敢えず……、元勇者仲間に報告しねえと……!)