第四話
巨大なゴーレムが縦に真っ二つになる。
イーフェが剣で倒したのだ。

「そろそろ帰りましょうか」
「そうだな」

二人は『時越えのダンジョン』、その出口に向かうことにした。
時間の経過を示すのは、二人の格好だ。
入った時の面影はなく、獣の皮を巻いただけの姿。
ジュードはヒゲも伸び放題。ふたりとも、髪型だけはあまり変わっていない。
イーフェが散髪を担当していた。

二人は、長年の友人のように気安い会話をしながら、ダンジョン内を進む。
荒野のようなフィールドだ。

「どれくらい経ったと思う?」
「こっちでか? ……どれくらいだろうな」
「百年くらいは経ってない?」
「確かめようがないからなぁ……」

決められた時間に、朝と夜が交互にくるような空間ではなかった。
正確な時間もわからない中で、二人は互いに支え合い、長い長い時を過ごしたのだ。

やがて、ダンジョンの出口が近づいてくる。
二人は入った時と同じように、手を繋いで一緒に外へ出た。

景色が切り替わる。
「戻ってきたのね……」
「パッと見は、あんまり変わってないように見えるな」

地形や景観が変わるほどの年月は経っていないということ。

その時、二人の上空を何かが通り過ぎて行った。
「ドラゴン!?」
イーフェが驚く。

翼を生やした巨竜が、街へ向かっている。

二人は顔を見合わせた。
ドラゴンは魔物だ。街を破壊し、人を殺す。

両者共に走り出す。
街壁に迫っていたのは、ドラゴンだけではなかった。
視界を埋め尽くすのはオークの群れ。

「あたしはオークを! ジュードはドラゴンのブレスから街を護って!」
「あぁ!」

二手に分かれ、二人は街を守るべく駆け出す。

ドラゴンが息を吸い込み、火炎のブレスを吐いた。
それが街を守ろうとする冒険者ごと街壁を焼き尽くそうとした――寸前。

ジュードが彼らを守るように立ちふさがる。
そして、ジュードの第二加護『状態異常耐性』の膜が、彼だけでなく周辺一帯を覆うように広がり、全てを『火炎によって引き起こされる異常』から守る。

そう、およそ百年に及ぶ鍛錬によってジュードの第二加護は極限まで鍛えられ、その『膜』はありとあらゆる異常を防ぐ、形状自在の防御壁へと進化したのだ。

「お前……ジュードか!?」
冒険者が彼を見て驚きの声を上げる。
その人物には見覚えがあった。年をとっているようにも見えない。
では、同じ時代に帰還できたのか。

ジュードは言う。

「久しぶり……。一つ訊きたいんだが、俺と前に会ってからどれくらい経った?」