私が登校した頃には大半の子がもう集まっていて、六年生しかまだいないグラウンドは静かでもあり賑やかでもあった。
男子はほとんど学ランで、女子はそれぞれの服装が多かった。私はこの日のために買ってもらった、紺色のワンピースで出席する。大人っぽい服装で行こうと思い、この服を選んだ。髪型も、朝苦戦しながらお団子にして軽く睫毛もあげた。
「うわぁ〜華花ちゃんかわいい!」
着くなりそんなことを言われて胸が弾む。
「華〜おっはよう!ってめっちゃ大人っぽくて可愛い!」
静葉にもそんなことを言われた。因みに静葉はベストにパンツという、クールなスタイルだ。静葉は、髪がショートだから余計に格好良く見える。
「今日も楽しもうね!」

私は、みんなに違う中学に行くことを伝えていなかった。本当に一部の、静葉達とか蘭々ちゃんにだけ。だから、当日知った子も多くて岡崎くんや他の子にも驚かれてしまった。この時非常に身勝手ながらもみんなと離れたくない気持ちが強かった。
しばらくみんなと喋って、卒業式が始まる。
番号順に、卒業証書が渡される。
「倉坂華花さん」
はいっと、練習してきた大きな返事をしてそれを受け取る。もう本当に終わっちゃうんだ。そんな気持ちが強まってくる。
「では最後に、六年生の感謝の言葉と合唱です。」
その声とほぼ同時に、移動して合唱曲の「春風の中で」を歌う。岡崎くんのピアノもめちゃくちゃ上手で歌も、気持ちよく歌うことができた。
周りの親を見ると、号泣している人がほとんどだった。体育館を埋め尽くす様な大きな拍手が巻き起こって幕が閉じた。

とりあえず教室に戻り、先生の話を聞く。と言っても、先生も号泣でろくに話ができなさそうだった。
「じゃあ、プロフィールとか配りまーす…ズズッ」
さっきから鼻水も涙もすごい先生はろくに話ができない。でも手際よく分厚くなったみんなのプロフィール帳を配っていく。
それぞれ確認しているので私も何となくページをめくってみる。
【ランキング】
【お金持ちになっていそうな人 …さん】
ランキングのページを見つけて何となく胸が高鳴る。
【夢を叶えていそうな人 華花さん】
載ってる…自分でも驚きだ。他にも、「制服が似合いそうな人」などいくつか名前が載っていた。こんなに載るなんて想像もしていなかったからすごく嬉しかった。みんなが自分のことをそう思ってくれていることも含めて嬉しかった。
「はい、一旦それ閉まって話を聞いてください。」
いつもだったらみんなもたもたしているけど今日は一気に場の空気が静まり返り、意識が先生に集中する。
「本当にみんなここまで頑張ってきた。いつまで経っても、お前達は可愛い教え子だ。」
もうこの時点で泣いてる子が沢山。
「最後に、一つみんなに宿題を出す。期限は、次の同窓会まで。“幸せになること”絶対に忘れてくるなよ!」
「「はい!」」
みんなも、この一言で励まされて元気を取り戻したみたい。「じゃあ、これで終わろうか」と先生が終わろうとすると。
「ちょっとまった!」
面白キャラの男子がそう言って、花束とみんなのメッセージカードを持って前に出る。そう、この日のために私たちは先生へ感謝を伝えようと準備してきたのだ。花束だってみんな親と相談して少しずつお金を出し合った。メッセージも、綺麗に飾り付けて卒業ぽく仕上げてみた。せめてもの感謝の証として。「ちょっとまった!」の声でみんなの笑い声が教室に響く。
「え〜ありがとう。こんなの渡されたらもう泣いちゃうよ」
もう泣いてるけど。と思ったけれど、みんなと一緒に拍手をする。
「よし!みんな起立!」
「はい!」
「…これで、六の一を終わります!」
「終わります!」
最後はみんな、元気に終わった。礼をした瞬間に涙が溢れてきたけれど。


そして今は、外に出て恒例の写真撮影をしようとそれぞれで集まっているところだ。静葉やみんなと写真を撮っていっぱい笑う。今度は笑う番だ。
「華花〜中学離れるの寂しいよ〜」
「大丈夫!いっぱい遊べばいいでしょ!」
「だね〜」
静葉と離れるのは寂しいし、これからやっていけるかが不安だ。私は今までの感謝を込めて、一部の仲がいい子にだけプレゼントをあげる。
「静葉、これあげる。今まで本当にありがとね。」
静葉にあげたのはハンドクリームだ。私が好きなブランドのものだから見ていて自分が欲しくなってしまう。
「華ちゃーん!おめでと!」
蘭々ちゃんがこっちに走ってきてくれる。
「おめでとう!今まで本当にありがとう!」
蘭々ちゃんが話しかけてくれなかったら今頃私はこんなに楽しい思い出なんてできていなかったはず。
「蘭々ちゃんこれ。本当に今までありがとう!」
蘭々ちゃんには、リップクリームをあげた。使ってくれるといいな。
「あっ、私もこれ!はなちゃんと遊べて本当に嬉しかった。」
そう言ってくれたのは、絵本の様な感じの見た目をしている「手紙」だった。
「こんなのいいの?!」
こんなに手の込んだものもらった事がなくて思わず動揺する。
「うん!本当に感謝してるから」
本当に優しい子だなと思った。

その後、みんなにはバレたくなくて一瞬の隙を見計らって先生のところへ走る。
「先生!」
樋口先生はこちらを振り向く。実はもう一つ私個人で用意していたものがあった。
「これ。一年間ありがとうございました。」
そう言ってピンクのリボンで纏められた、紙の束を手渡す。
「最後かもしれない、小説です。」
初めは何となくで初めてみた小説。でも、先生が評価してくれたから続けようと思ったし小説家になってみようと思った。まだ恥ずかしさは消えないけど、先生にこれだけは渡したかった。
「ありがとう。次の学校でも頑張るんだぞ!華花さんならいける!」
「はい!」

その小説のタイトルは、“出会えた奇跡というものよ”である。