大きな出来事が次々と終わっていって、あっという間にもう卒業式。まだ卒業式まで時間があるけれどもう準備は始められている。今は、卒業式とその前にある『卒業生を送る会』というものの、準備をしているところだ。『卒業生を送る会』というのは、卒業式に出席しない一年生から三年生が私たちに感謝を伝えるというもので、その三学年以外にも一から五年生がその会を作ってくれる。今までは自分がする側だったからこうしてやってもらう側になるのは何だか落ち着かない。私たち六年生もただみるだけではなく、全校へ向けて合唱をすることになっている。その歌をこれから決めるのだ。
候補は五つあり、その中から卒業式用も含めて二曲選ぶ。ということで、散々悩んだ結果「旅立ちの日に」という定番な曲と「春風の中で」という二曲が決まった。
「伴奏と指揮の立候補者いますかー?」
そう先生が聞いた。私を手を上げた。そう、私は「旅立ちの日に」の伴奏をしようと思っている。今までも、毎年伴奏を担当してきて最後はもちろん弾きたいと思ったから。気付いたら、進級時の憂鬱な気持ちは霧が一気にはけて行ったかのように無くなって晴々とした気持ちになっていた。こんな気持ちになるのは久々でほんとに気がついたら…というようなものだった。
他の立候補者は岡崎くんだけで岡崎くんもまた、毎年伴奏をしている。
「じゃあ、この二人で締め切るぞー」
他に誰もいないのは、毎年私たちでやってきたからだと思う。他にももしかしたらやりたい人がいるかもしれない。でも、空気的に立候補できなのかもと思う。そう思うと申し訳なくなってきたけれど、やるからには全力。それが私のモットーだから。中途半端は嫌いだ。

その授業が終わると岡崎くんに話しかけられた。
「どっちの曲にするか決めてる?」
「うーん、私は旅立ちの日ににしようかなって。岡崎くんは?」
「僕は、春風の中でにするよ。お互い頑張ろうね。」
「そうだね、ありがとう」
私は曲の好みではなく、こっちの方が比較的簡単そうだったから選んだ。私よりも岡崎くんの方が遥かにピアノが上手いから期待大だ。


「もっとここ大きく!盛り上がる感じで」
指揮者も決まってあとは練習するだけ。ソプラノとアルトに分かれて練習中。
この二曲は、発表する日が近いために同時進行している。今は「旅立ちの日に」の練習時間で私はソプラノ側についている。先生はというと、アルトの指導をするために他の教室にいる。つまり私は一人でみんなを仕切らなければいけないということ。先生に頼まれていたのだ。「華花さんがみんなを仕切って練習しておいてよ」と。こういうの苦手なのに。
そしてさっきから音程の練習をしているのだが場の雰囲気は最悪で所々沈黙が起きている。みんなも何をすればいいかわからない感じで、周りを見ているが正直ピアノ伴奏者で音痴な私が歌の指導なんでできるはずがない。こんな時、岡崎くんだったら手際良く仕切っていくんだろうなと想像する。やっぱり私と岡崎くんは全然違う。
微妙な感じでグループ分け練習が終わり、次は全員揃って合わせる。それの移動中、蘭々ちゃんとその他の女の子に応援してもらった。
「華花ちゃんなら絶対大丈夫だって!ソプラノの練習の時もすっごくピアノ上手だもん。」
「ありがとう」
そうはいうけど…と私の頭の中は嫌な想像ばかりで埋め尽くされているからもうどうしようもなかった。
その後の合わせ練習は、伴奏自体はできたものの音程練習で間違えまくりみんなに迷惑をかけた。それでも褒めてくれるみんなは優しい。でも、それが本当の気持ちなのかと少々疑った。