【新しい風】
――港町マイヨルカはすっかり平穏を取り戻していた。
町の空は、まるで長かった雨の鬱屈を一掃するかのように、どこまでも澄み渡り、鮮やかな青が広がっている。
太陽は眩しいほどの光を海面に降り注ぎ、その反射がきらきらと輝く様子はまるで宝石を散りばめたかのようだった。穏やかな波が白い砂浜に打ち寄せ、潮の香りが町全体に漂っている。遠くからはカモメの鳴き声が聞こえ、港に停泊する漁船のマストが風に揺れて軋む音が、夏の訪れを告げていた。
その中心に位置するのが、「さんきんぐ」だ。
ヨウイチがオープンさせたこのカフェは、かつては物置だったことが嘘のように賑わいを見せている。
木造の建物は海風に晒されて年季が入っているが、そこに飾られた色とりどりの貝殻や布の装飾が、店全体に温かみを与えていた。テラス席からは、目の前に広がる海の絶景を一望できる。観光客たちは冷たいドリンクを片手に、波の音に耳を傾けながらくつろいでいる。
カフェの奥からは、氷の砕ける涼しげな音とともに、クールなエルフの剣士ディアナの姿が現れる。
彼女は、長い銀髪をポニーテールに結び、淡い青の瞳で静かに周囲を見渡していた。彼女の動きは無駄がなく、一つ一つの所作がまるで剣技のように洗練されている。ディアナは決して表情豊かではないし、愛想を振りまくこともない。しかし、その冷たい美しさと凛とした佇まいが、逆に客たちの心を引きつけてやまないのだ。
氷結スキルを駆使する彼女の手にかかれば、どんなぬるくなった飲み物も瞬時に冷やされ、果物もシャーベットのように変わる。
その光景は一種のパフォーマンスのようでもあり、客たちはその度に小さな歓声を上げていた。さらに彼女の滑らかな褐色の肌と女性的なメリハリある体躯は、日差しの下で一層際立ち、男性客のみならず女性客までもがその姿に見惚れてしまう。
ディアナ自身は、そうした注目に対して無関心を装っている。「やかましい!」と一蹴する彼女の声も、逆に客たちにとっては魅力的に映るらしく、ヨウイチはその人気に感謝しつつも苦笑いを浮かべるばかりだった。
彼にとって、ディアナの存在はただのスタッフ以上の意味を持ち始めていた。彼女の冷たさの裏に隠された哀しみや優しさ、戦士としての誇りを知る者として、ヨウイチは彼女の成長と変化を静かに見守っている。
店の外でも、ビーチに遊びにきた近隣の村々の人々や、子供たちの笑い声が絶えない。クラーケン退治以降、晴天が続くこの町は、10年に及んだ長い雨による沈鬱な雰囲気を完全に脱し、瑞々しい活気に満ちていた。
ヨウイチは、カフェのカウンター越しにそれらを見つめいていた。
美しく青い海、晴れ渡る空、人々の笑顔……
しかし、その目に映るザ・ビーチリゾートな平和な風景とは裏腹に、ヨウイチなぜか胸騒ぎを覚えていた。何かが、何かの波乱が、またこの町に訪れるのではないか、と――それを考えると、心の奥底で何かがざわめくのを感じていた。
そして、ヨウイチの予感どおり、マイヨルカの晴れ渡る青空の下、また新たな物語が動き出そうとしていた。
――港町マイヨルカはすっかり平穏を取り戻していた。
町の空は、まるで長かった雨の鬱屈を一掃するかのように、どこまでも澄み渡り、鮮やかな青が広がっている。
太陽は眩しいほどの光を海面に降り注ぎ、その反射がきらきらと輝く様子はまるで宝石を散りばめたかのようだった。穏やかな波が白い砂浜に打ち寄せ、潮の香りが町全体に漂っている。遠くからはカモメの鳴き声が聞こえ、港に停泊する漁船のマストが風に揺れて軋む音が、夏の訪れを告げていた。
その中心に位置するのが、「さんきんぐ」だ。
ヨウイチがオープンさせたこのカフェは、かつては物置だったことが嘘のように賑わいを見せている。
木造の建物は海風に晒されて年季が入っているが、そこに飾られた色とりどりの貝殻や布の装飾が、店全体に温かみを与えていた。テラス席からは、目の前に広がる海の絶景を一望できる。観光客たちは冷たいドリンクを片手に、波の音に耳を傾けながらくつろいでいる。
カフェの奥からは、氷の砕ける涼しげな音とともに、クールなエルフの剣士ディアナの姿が現れる。
彼女は、長い銀髪をポニーテールに結び、淡い青の瞳で静かに周囲を見渡していた。彼女の動きは無駄がなく、一つ一つの所作がまるで剣技のように洗練されている。ディアナは決して表情豊かではないし、愛想を振りまくこともない。しかし、その冷たい美しさと凛とした佇まいが、逆に客たちの心を引きつけてやまないのだ。
氷結スキルを駆使する彼女の手にかかれば、どんなぬるくなった飲み物も瞬時に冷やされ、果物もシャーベットのように変わる。
その光景は一種のパフォーマンスのようでもあり、客たちはその度に小さな歓声を上げていた。さらに彼女の滑らかな褐色の肌と女性的なメリハリある体躯は、日差しの下で一層際立ち、男性客のみならず女性客までもがその姿に見惚れてしまう。
ディアナ自身は、そうした注目に対して無関心を装っている。「やかましい!」と一蹴する彼女の声も、逆に客たちにとっては魅力的に映るらしく、ヨウイチはその人気に感謝しつつも苦笑いを浮かべるばかりだった。
彼にとって、ディアナの存在はただのスタッフ以上の意味を持ち始めていた。彼女の冷たさの裏に隠された哀しみや優しさ、戦士としての誇りを知る者として、ヨウイチは彼女の成長と変化を静かに見守っている。
店の外でも、ビーチに遊びにきた近隣の村々の人々や、子供たちの笑い声が絶えない。クラーケン退治以降、晴天が続くこの町は、10年に及んだ長い雨による沈鬱な雰囲気を完全に脱し、瑞々しい活気に満ちていた。
ヨウイチは、カフェのカウンター越しにそれらを見つめいていた。
美しく青い海、晴れ渡る空、人々の笑顔……
しかし、その目に映るザ・ビーチリゾートな平和な風景とは裏腹に、ヨウイチなぜか胸騒ぎを覚えていた。何かが、何かの波乱が、またこの町に訪れるのではないか、と――それを考えると、心の奥底で何かがざわめくのを感じていた。
そして、ヨウイチの予感どおり、マイヨルカの晴れ渡る青空の下、また新たな物語が動き出そうとしていた。
