【調査】
それからディアナは数日間、マイヨルカに滞在しながら色々と調べた。
彼女の狙いは「クラーケンを倒せるほどの強者との手合わせ」だ。しかし、いくら調べても出てくるのはヨウイチの名で、しかも聞けば聞くほど、町の人々はヨウイチを“カフェの親切な店主”としてしか認識していなかった。
「なーんか変ねぇ。あの人は確かにクラーケンを倒したって聞いたけど、たまたま運が良かったとかじゃないの?」
「うーん、でも町長は本当に感謝してるし、実際に命を救われたっていうメルお嬢様もいる。ま、オレたちには分かんないよ」
「カフェ店主にに気軽に倒せるようなモンスターじゃないはずなのに……何なんだろうな?」
こうして話を聞くほどに謎が深まるばかり。
それでもディアナ自身は暑さでぼんやりしており、それ以上の強引な調査はできずにいた。日中は甲冑を脱ぎ捨てて、革鎧と簡素なブラウスで過ごすしかない。汗が滴り落ちる中、日陰を求めてフラフラしていると、つい「さんきんぐ」で涼をとりたくなってしまう。
結果として、ディアナは昼食や夕食を「さんきんぐ」で摂るようになった。
ヨウイチの作る料理はどれも美味く、特にドリンクやデザート系の甘味は、暑がりのディアナにとって癒やしそのものだった。
彼女は最初こそスキルなどを見破ろうとヨウイチを観察していたが、見る限り彼からは不思議な気配はまったく感じられない。ごく稀に「隠された力」を持つ者がいるが、そこまでして隠す必要もあるまい――と首を傾げるばかり。
(まあ、どうせデマかもしれない。しばらくこの町で美味いものを食べて、それから別の町へ旅立つか)
そんな考えが頭をよぎり始めたころ、ディアナにはもう一つの“楽しみ”ができていた。
夜な夜な町の広場に集う冒険者たち――彼らもまた海辺を訪れていたり、クラーケン討伐の噂を聞きつけて偵察に来ていたりする者が少なくなかったのだ。旅の冒険者たちは、町の酒場で武勇伝を披露し合ったり、クラーケンの残骸がどこにあるのかを探ろうとしたりしている。
ディアナにとっては、そうした連中との“果し合い”が格好の暇つぶしになった。
「悪いわね。ちょっと手合わせしてくれない?」
ディアナは夜の帳が下りると、酒場で意気揚々と話している冒険者たちの前に立ちはだかり、強引に勝負を仕掛けるのだ。
受けた側としてはたまったものではない。闇討ち同然と言われても仕方がない形だが、ディアナは本気で殺すつもりはなく、あくまで強者かどうかを見極めるために腕試しをしている。だが、ほとんどの冒険者は彼女の凄まじい剣技と、氷の魔力を注ぎ込んだ斬撃の前に戦意を喪失する。
「ちょっと! 何なんだお前は!」 「ぎゃああ、凍る、凍る!」 「くそっ、まるで歯が立たない……!」
何人かと渡り合ううちに、ディアナの“氷結剣士”としての名声はマイヨルカでも広がり始めた。とはいえ、彼女の目的はあくまで“クラーケンを倒した男”との戦闘であり、その他の連中には興味がない。
圧倒的な実力差で勝負をつけては、つまらなそうに去っていく――そんな夜が何日か続いた。
しかし、ディアナは相変わらずヨウイチとの直接対決の機会を得られない。
昼の「さんきんぐ」で彼が忙しそうに動き回っているのを見ても、あまりにも普通に見えるので、挑んだところで期待した結果が得られる気がしなかった。あくまで「彼がただの一般人なら戦う意味もない」と判断していたのだろう。
それでも、ディアナには“さんきんぐ”の料理がやたらと気に入ってしまったらしい。
あれこれ言いながらも、毎日のようにやって来てはカウンター席に座り、豪快に飲み食いし、会計を済ませて去って行く。ヨウイチからすれば、見た目はセクシーな褐色肌の女性だが、食欲旺盛かつ無愛想という不思議な上客という印象だ。
「今日も来てくれたんですね。いつもありがとうございます。ディアナさん」
「ああ。単にここの飯が好きなだけだ。勘違いしないでくれ」
そう言いながらも、ドリンクを一気に飲み干してホッと息をつくディアナの姿は、どことなく居心地が良さそうに見えた。
店を構えるヨウイチとしては、これほど多く注文してくれる客はありがたかったし、いつかスタッフが不足していることを相談してみようかと思い始めていた。
しかし、ディアナの凄まじい大食漢ぶりと威圧感を見ると、気軽に声をかけるのは躊躇われた。
それからディアナは数日間、マイヨルカに滞在しながら色々と調べた。
彼女の狙いは「クラーケンを倒せるほどの強者との手合わせ」だ。しかし、いくら調べても出てくるのはヨウイチの名で、しかも聞けば聞くほど、町の人々はヨウイチを“カフェの親切な店主”としてしか認識していなかった。
「なーんか変ねぇ。あの人は確かにクラーケンを倒したって聞いたけど、たまたま運が良かったとかじゃないの?」
「うーん、でも町長は本当に感謝してるし、実際に命を救われたっていうメルお嬢様もいる。ま、オレたちには分かんないよ」
「カフェ店主にに気軽に倒せるようなモンスターじゃないはずなのに……何なんだろうな?」
こうして話を聞くほどに謎が深まるばかり。
それでもディアナ自身は暑さでぼんやりしており、それ以上の強引な調査はできずにいた。日中は甲冑を脱ぎ捨てて、革鎧と簡素なブラウスで過ごすしかない。汗が滴り落ちる中、日陰を求めてフラフラしていると、つい「さんきんぐ」で涼をとりたくなってしまう。
結果として、ディアナは昼食や夕食を「さんきんぐ」で摂るようになった。
ヨウイチの作る料理はどれも美味く、特にドリンクやデザート系の甘味は、暑がりのディアナにとって癒やしそのものだった。
彼女は最初こそスキルなどを見破ろうとヨウイチを観察していたが、見る限り彼からは不思議な気配はまったく感じられない。ごく稀に「隠された力」を持つ者がいるが、そこまでして隠す必要もあるまい――と首を傾げるばかり。
(まあ、どうせデマかもしれない。しばらくこの町で美味いものを食べて、それから別の町へ旅立つか)
そんな考えが頭をよぎり始めたころ、ディアナにはもう一つの“楽しみ”ができていた。
夜な夜な町の広場に集う冒険者たち――彼らもまた海辺を訪れていたり、クラーケン討伐の噂を聞きつけて偵察に来ていたりする者が少なくなかったのだ。旅の冒険者たちは、町の酒場で武勇伝を披露し合ったり、クラーケンの残骸がどこにあるのかを探ろうとしたりしている。
ディアナにとっては、そうした連中との“果し合い”が格好の暇つぶしになった。
「悪いわね。ちょっと手合わせしてくれない?」
ディアナは夜の帳が下りると、酒場で意気揚々と話している冒険者たちの前に立ちはだかり、強引に勝負を仕掛けるのだ。
受けた側としてはたまったものではない。闇討ち同然と言われても仕方がない形だが、ディアナは本気で殺すつもりはなく、あくまで強者かどうかを見極めるために腕試しをしている。だが、ほとんどの冒険者は彼女の凄まじい剣技と、氷の魔力を注ぎ込んだ斬撃の前に戦意を喪失する。
「ちょっと! 何なんだお前は!」 「ぎゃああ、凍る、凍る!」 「くそっ、まるで歯が立たない……!」
何人かと渡り合ううちに、ディアナの“氷結剣士”としての名声はマイヨルカでも広がり始めた。とはいえ、彼女の目的はあくまで“クラーケンを倒した男”との戦闘であり、その他の連中には興味がない。
圧倒的な実力差で勝負をつけては、つまらなそうに去っていく――そんな夜が何日か続いた。
しかし、ディアナは相変わらずヨウイチとの直接対決の機会を得られない。
昼の「さんきんぐ」で彼が忙しそうに動き回っているのを見ても、あまりにも普通に見えるので、挑んだところで期待した結果が得られる気がしなかった。あくまで「彼がただの一般人なら戦う意味もない」と判断していたのだろう。
それでも、ディアナには“さんきんぐ”の料理がやたらと気に入ってしまったらしい。
あれこれ言いながらも、毎日のようにやって来てはカウンター席に座り、豪快に飲み食いし、会計を済ませて去って行く。ヨウイチからすれば、見た目はセクシーな褐色肌の女性だが、食欲旺盛かつ無愛想という不思議な上客という印象だ。
「今日も来てくれたんですね。いつもありがとうございます。ディアナさん」
「ああ。単にここの飯が好きなだけだ。勘違いしないでくれ」
そう言いながらも、ドリンクを一気に飲み干してホッと息をつくディアナの姿は、どことなく居心地が良さそうに見えた。
店を構えるヨウイチとしては、これほど多く注文してくれる客はありがたかったし、いつかスタッフが不足していることを相談してみようかと思い始めていた。
しかし、ディアナの凄まじい大食漢ぶりと威圧感を見ると、気軽に声をかけるのは躊躇われた。
