【人手不足】
――この世界において一年三百六十五日降り続いていた雨が止み、真夏の太陽が降り注ぐようになってから、早くも二か月ほどが過ぎていた。
海辺の町マイヨルカは、かつては雨と嵐に覆われた町であったが、今はピーカン照りが続く。
港の工事が進み、漁業や海運の再開を準備する者たちが少しずつ増え、ビーチにも活気が戻り始めた。酷暑というほどではないものの、十年間ほとんど直射日光を拝めなかったこの土地の人々にとっては、暑さはかなり厳しく感じられるらしい。
それでも、人々は晴れの光を求めてやってくる。近隣の町や村からも、日差しを浴びてレジャーを楽しもうという者が訪れるようになった。
マイヨルカが観光地として再生する日は、案外近いのかもしれない――そんな期待が膨らんでいる。
そして、町外れの海岸に建つビーチカフェ「さんきんぐ」も、連日のように賑わいを見せていた。
その店の主人、松山陽一(ヨウイチ)――異世界に召喚され、“晴れ男”のスキルを得た男である。
彼は日々多くの客を迎え、忙しそうに立ち回りながらも、はつらつとした表情を浮かべている。
店のカウンターには、野菜や魚介を使った料理や、トロピカルフルーツのジュース、それにアルコール類も並んでいる。
この世界では貴重とされている香辛料を調合し、さらにはヨウイチが前世で身につけた料理の知識を活かして、独特のメニューを開発したことで評判が広まりつつあった。「こんな味は初めてだ」「クセになる」「また来たい」――そう言ってリピーターになる客も多い。
晴れ渡ったビーチを見ながら楽しむ冷たいドリンクと料理。人々はこの店を「楽園」と称え、訪れるたびに笑顔を浮かべる。ヨウイチ自身も、ここが自分の居場所だと感じられるようになっていた。
一方、彼の能力の源であり、謎の存在でもある“光の妖精”は、「テリー」という愛称を与えられた。
彼は、もともとヨウイチが作ったてるてる坊主がきっかけで顕現し、ヨウイチと一体化することで驚異的な戦闘能力を引き出す守護神的な存在であるが、
今では町長の娘メルのことをすっかり気に入ってしまった。
「僕はメルのところに行ってくるね~」と言いながら、日中はほとんどメルの家や町の方を飛び回っている。
もっとも、テリーの姿は魔力を持つ人間(“冒険者”やそれに準ずる者)でなければ見えないため、普通の町人は誰もそれに気づいてはいない。
メルは、オープンの後もしばらく手伝ってくれたが、町長の仕事をサポートするほうが多忙になり、今では時おり顔を出してサポートしてくれる程度に落ち着いている。
結果としてヨウイチは仕込みから接客まで一人でこなしており、そろそろ手が回らなくなっていた。
「うーん、誰か雇わないと、まじで手が足りないぞ……」
ヨウイチは店のカウンターに並べたランチメニューを客に運びながら、ため息をつく。
もちろん、雇うにも相応の給料を支払わなくてはならないが、今の売り上げなら十分にその余裕はある。問題は、この地にはまだ職を探しに来る人が少なく、貴重な人材となり得る人は皆、再開した漁や港湾工事、あるいは他の商売に忙しいということだ。そんな中、誰か良いスタッフはいないものか――そんな期待を抱く日々が続いていた。
――この世界において一年三百六十五日降り続いていた雨が止み、真夏の太陽が降り注ぐようになってから、早くも二か月ほどが過ぎていた。
海辺の町マイヨルカは、かつては雨と嵐に覆われた町であったが、今はピーカン照りが続く。
港の工事が進み、漁業や海運の再開を準備する者たちが少しずつ増え、ビーチにも活気が戻り始めた。酷暑というほどではないものの、十年間ほとんど直射日光を拝めなかったこの土地の人々にとっては、暑さはかなり厳しく感じられるらしい。
それでも、人々は晴れの光を求めてやってくる。近隣の町や村からも、日差しを浴びてレジャーを楽しもうという者が訪れるようになった。
マイヨルカが観光地として再生する日は、案外近いのかもしれない――そんな期待が膨らんでいる。
そして、町外れの海岸に建つビーチカフェ「さんきんぐ」も、連日のように賑わいを見せていた。
その店の主人、松山陽一(ヨウイチ)――異世界に召喚され、“晴れ男”のスキルを得た男である。
彼は日々多くの客を迎え、忙しそうに立ち回りながらも、はつらつとした表情を浮かべている。
店のカウンターには、野菜や魚介を使った料理や、トロピカルフルーツのジュース、それにアルコール類も並んでいる。
この世界では貴重とされている香辛料を調合し、さらにはヨウイチが前世で身につけた料理の知識を活かして、独特のメニューを開発したことで評判が広まりつつあった。「こんな味は初めてだ」「クセになる」「また来たい」――そう言ってリピーターになる客も多い。
晴れ渡ったビーチを見ながら楽しむ冷たいドリンクと料理。人々はこの店を「楽園」と称え、訪れるたびに笑顔を浮かべる。ヨウイチ自身も、ここが自分の居場所だと感じられるようになっていた。
一方、彼の能力の源であり、謎の存在でもある“光の妖精”は、「テリー」という愛称を与えられた。
彼は、もともとヨウイチが作ったてるてる坊主がきっかけで顕現し、ヨウイチと一体化することで驚異的な戦闘能力を引き出す守護神的な存在であるが、
今では町長の娘メルのことをすっかり気に入ってしまった。
「僕はメルのところに行ってくるね~」と言いながら、日中はほとんどメルの家や町の方を飛び回っている。
もっとも、テリーの姿は魔力を持つ人間(“冒険者”やそれに準ずる者)でなければ見えないため、普通の町人は誰もそれに気づいてはいない。
メルは、オープンの後もしばらく手伝ってくれたが、町長の仕事をサポートするほうが多忙になり、今では時おり顔を出してサポートしてくれる程度に落ち着いている。
結果としてヨウイチは仕込みから接客まで一人でこなしており、そろそろ手が回らなくなっていた。
「うーん、誰か雇わないと、まじで手が足りないぞ……」
ヨウイチは店のカウンターに並べたランチメニューを客に運びながら、ため息をつく。
もちろん、雇うにも相応の給料を支払わなくてはならないが、今の売り上げなら十分にその余裕はある。問題は、この地にはまだ職を探しに来る人が少なく、貴重な人材となり得る人は皆、再開した漁や港湾工事、あるいは他の商売に忙しいということだ。そんな中、誰か良いスタッフはいないものか――そんな期待を抱く日々が続いていた。
