「助かる。じゃあ、早速」

 洋観はクロエから硬貨を数枚受け取るとすぐさま、店の奥に難しそうな顔でガラクタ……商品に囲まれるようにして埋もれてる店主に駆け寄っていく。
 そして壁に掛かった鏡を指差して尋ねた。

「あの――、ご主人。そこの壁に掛かっている鏡なんだが、あれは幾らするのか教えてもらえないだろうか?」

 古道具屋の店主は、面倒くさそうに顔を上げ、洋観の方を向くと、ずり下がったメガネの位置を調節するように少しだけ上げた。

「ああっ? ああ……あれか。あの鏡はもう十年近く買い手が無く売れ残ってる品だから、タダでいいや、持っていけ」
「い、いや、それは困る。ああ、そうだ。ここにあるお金で足りるかどうか分からないが、ちゃんと代金は払うから、この鏡売って欲しいんだ」

 洋観は、クロエから渡された硬貨を店主に差し出す。
 
「おいおい、1万デール金貨じゃないか? そんなには要らない。50デールくらいでどうだ?」

 50デールといわれても、実際にどのくらいの価値に相当するのか、皆目検討もつかない。しかし、手持ちのお金で買える程度であるのなら、手に入れておくべきだろう。
 洋観は、クロエに頼んでポケットの中から50デールに相当する硬貨をお店主に差し出して、売買が成立した。


「いや、待てよ。ってことはクロエのポケットに入っていた硬貨って、もしかして結構な額の金額になるんじゃネ? だって、ほら金貨なんて十数枚あるし、銀貨も銅貨もたっぷりあるぞ」

「そういえば、トモカさんも、1000デールあればひと月暮らすには十分だといってな」
「そもそも、大金を手に入れたとして、嗜好品や娯楽やギャンブル、高級レストランもなさそうなこの異世界で、一体何にこのお金を何に使おうっていうんだ?」

 クロエの真っ当な意見に洋観がすかさず楯突く。

「ええ――っ、そんなにケチケチしなくってもいいじゃん。無いよりは有るほうがいいに決まってるし、この先どんな災難に合うとも限らないだろ? 怪我や病気をしたらどうするんだ? 保険だって、銀行だってこの世界には無いぜきっと。お医者さんは……まあ、トモカさんがいるけど。いつ何時お金が必要になるとも限らないんだし、蓄えはいくらあってもいいに決まってるだろう。なっ!?」