「ここまでが、テスト範囲です。各自しっかり復習しておいて下さい」

 締めの言葉と同時に、終了を知らせるチャイムが響く。
 有名進学校として、全国にその名を響かせている「私立青陽学園」
 文武両道を掲げ、様々な部活動も優秀な成績を修めている。

 教室の開け放たれた窓からは、初夏の爽やかな風がカーテンを揺らす。

「ルネ、まだノートとってるの?早くお昼にしようよ」
「あぁぁ、ちょっと待って。どうしても、最後の公式が・・・・。って、あああああ!!!黒板待って、消さないでぇぇぇぇぇ」
 
 1時間の昼食休憩が始まり、一気に校内が騒がしくなる。
 学食へ向かう人、他のクラスへ声をかけに行く人、机を向き合わせる人。
 各々が、入学後3か月で習得したルーティーンをこなす。

「神様、仏様、淳美《あつみ》様。そうか、先ほどの公式を・・・・」
「何それ、ルネってば」

 中学時代、湖西ルネの成績は決して悪くはなかった。
 というか、学年でも常に上位5位をキープしていた。
 しかし、遡る事、中3の夏。
 受験の息抜きという名目で、友人と都内へ出かけた時だった。

 自分の机に広げっぱなしのノート。
 それを見て、思わずため息がもれた。

「やっぱり、追い付くのに必死だよ。さっきみたいに、応用問題出されちゃうと、どうにも、こうにもボロが出るというか」
「ルネは、考えすぎなんだよ~。数学は、ほら、思い付き?っていうか、ひらめき?みたいな」
「これだから、天才は・・・・・」

 聞く相手を間違えた、と。

「ほらほら、早くしないとお昼の時間なくなっちゃいうよ。次、生物だから別棟に移動だし」

 と言いつつ、先ほどの数学のノートが、そっとルネに差し出される。
 入学当初から、前後の席で意気投合した2人の関係は良好。
 ルネは、鞄からサンドイッチを取り出し一口ほおばった。
 視線は、友人のノートに向けたまま。

「・・・さすが、学年1位。ノートがさっぱりしすぎてて、全く参考にならん」
「だから、数学はひらめきだってば~」
「ひらめきません、凡人は」

 あ、なんか標語っぽいな。これ。

 くすっと、桜色の唇に手を添えて品よく微笑んだ学年1位。
 その微笑みは、男子生徒数名の時を止めたわけであるが。
 もちろん、当の本人、葉月淳美《はづきあつみ》が気付くわけもない。

「そう言えばルネ、