タバコの匂いの染みついた薄暗い小部屋。
 不釣り合いに大きいなテレビ。
 少しくたびれたソファー。

 そこに、制服を少々気崩した女子高生が一人。
 通学鞄から取り出したのは、教科書に交じって忍び込んだ黒いマイク。
 コツコツと幼い頃から積み立ててきた、微々たるお年玉貯金。
 先日、ついに思い切って購入した物が、このマイクだった。
 ちょっと背伸びをして購入しただけあって、性能に間違いなかった。
 おかげで、この放課後カラオケ通いに更に熱が入ったわけであるが。
 
 毎度の手順で、テレビの後ろに回り端子を接続した。
 決まって、同じ部屋を指定しているので手順に全く迷いがない。
 
「マイクチェック、マイクチェック、あ、あ、あ、本日も晴天なり」

 短く息を吹きかける。
 ハウリングなし。

「よしっ!さぁ、今日もガンガン歌っていこう!!」

 個室に響く、明るく張りのある声。
 それに応える声など、ないのだが。
 
 そんな事、お構いなしに今日も歌って、歌って、歌い倒す。
 放課後の2時間。
 
 湖西ルネ、趣味おひとり様カラオケ(平日に限る)