第二章 古戦場にて
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「神代の戦? 僕とフィアナがですか? でもどうやって……」
ユウリは驚愕を口に出した。斜め下では、愛らしい見た目の女の子が愛らしさのかけらもない尊大な笑顔を浮かべている。ルミラリア士官学校の長、メイサである。
ケイジの神葬から三日経った放課後だった。授業を終えて帰宅しようとしたユウリを、メイサは呼び止めた。
「先日のケイジ・ラングレイ殺害の事件で、君と私はリグラムとファルヴォスという名の者と交戦しただろう。その報告を法皇庁に持っていくと、『神話時代の戦を記した書紀に、ファルヴォスに似たような者の記録があった』という返答が得られた。さらに協議した結果、我々は今後の悪竜との戦いを優位に進めるために禁断の箱を開けることにした。すなわち、神古の木箱の使用、だ」
断定的な口振りで、メイサは言い切った。相変わらず発言内容とは裏腹に、声だけは童女のそれである。
「神古の木箱……。噂には聞いたことがあります。太古の昔に行われた、神代の戦を体験できる神具、でしたか。でも聖都のどこかにあるってだけで、誰も見つけられてなかったんじゃあ──」
「見かけに違わず情弱だな、ユウリ君。神古の木箱は既に発見されており、法皇の自室に保管されている」
おずおずとしたユウリの返答に、メイサはすかさず被せてきた。
「ちなみに参加者は五人だ。今回の件に関わった君とフィアナ嬢。神古の木箱発動に必要な法皇の系譜であり、ルミラリアの神話にも精通するルカ・ヴェルメーレン。それに加えてシャウア・カルヴィア」
「シャウアもですか! またどうして?」ユウリは即座に問うた。
「そう焦らずとも説明するよ。せっかちは君の欠点の一つだ。直すよう心掛けるべきだな」
メイサの返事は不穏な口振りだった。口元こそ笑顔だが、目は笑っていない。
(しくじった! この人に口答えはやばい!)ユウリの背中に冷たいものが走る。
「公表はされていないが、実は神代の戦には蝶の翼を有する戦士も参加していたとされている。そこでエデリアの新進気鋭の神学者であるカルヴィア氏に声がかかったってわけだ。彼なら君やフィアナ嬢とも親しく、護衛も容易だろう」
知的な声色でメイサは言葉を継いだ。怒涛の展開にユウリは言葉を失う。
「残り一人が気になるか? 当ててみろ。大ヒントは、君の目の前に佇んでいる比類無き才媛、だ」
メイサは可愛らしい腰に可愛らしい両手を当て、可愛らしくない眼差しでユウリを見据えた。
(それってヒントか? 答を言っちまってるじゃないかよ)
疑問を抱きつつユウリは、「メイサ先生も来てくれるんですか?」と怖々返答した。
「ご名答、大正解だ。まあ当然だな。私もファルヴォスらを目撃しているのだからな。
だが勘違いするなよ。法皇庁直々の特別任務だ。人任せにせず、全力で以て職務に当たるように」
上役然とした調子の命令が来た。「承知しました」とユウリはびしりと返す。
(言動は徹頭徹尾、上から目線。型破りでめちゃくちゃなところもあるけど、メイサ先生は基本的には面倒見の良い人だ。神代の戦は正直恐ろしいけど、全力で頑張れば活路は見出せるはず。気合を入れて臨まないとな)
ユウリはひそかに決心するのだった。
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「神代の戦? 僕とフィアナがですか? でもどうやって……」
ユウリは驚愕を口に出した。斜め下では、愛らしい見た目の女の子が愛らしさのかけらもない尊大な笑顔を浮かべている。ルミラリア士官学校の長、メイサである。
ケイジの神葬から三日経った放課後だった。授業を終えて帰宅しようとしたユウリを、メイサは呼び止めた。
「先日のケイジ・ラングレイ殺害の事件で、君と私はリグラムとファルヴォスという名の者と交戦しただろう。その報告を法皇庁に持っていくと、『神話時代の戦を記した書紀に、ファルヴォスに似たような者の記録があった』という返答が得られた。さらに協議した結果、我々は今後の悪竜との戦いを優位に進めるために禁断の箱を開けることにした。すなわち、神古の木箱の使用、だ」
断定的な口振りで、メイサは言い切った。相変わらず発言内容とは裏腹に、声だけは童女のそれである。
「神古の木箱……。噂には聞いたことがあります。太古の昔に行われた、神代の戦を体験できる神具、でしたか。でも聖都のどこかにあるってだけで、誰も見つけられてなかったんじゃあ──」
「見かけに違わず情弱だな、ユウリ君。神古の木箱は既に発見されており、法皇の自室に保管されている」
おずおずとしたユウリの返答に、メイサはすかさず被せてきた。
「ちなみに参加者は五人だ。今回の件に関わった君とフィアナ嬢。神古の木箱発動に必要な法皇の系譜であり、ルミラリアの神話にも精通するルカ・ヴェルメーレン。それに加えてシャウア・カルヴィア」
「シャウアもですか! またどうして?」ユウリは即座に問うた。
「そう焦らずとも説明するよ。せっかちは君の欠点の一つだ。直すよう心掛けるべきだな」
メイサの返事は不穏な口振りだった。口元こそ笑顔だが、目は笑っていない。
(しくじった! この人に口答えはやばい!)ユウリの背中に冷たいものが走る。
「公表はされていないが、実は神代の戦には蝶の翼を有する戦士も参加していたとされている。そこでエデリアの新進気鋭の神学者であるカルヴィア氏に声がかかったってわけだ。彼なら君やフィアナ嬢とも親しく、護衛も容易だろう」
知的な声色でメイサは言葉を継いだ。怒涛の展開にユウリは言葉を失う。
「残り一人が気になるか? 当ててみろ。大ヒントは、君の目の前に佇んでいる比類無き才媛、だ」
メイサは可愛らしい腰に可愛らしい両手を当て、可愛らしくない眼差しでユウリを見据えた。
(それってヒントか? 答を言っちまってるじゃないかよ)
疑問を抱きつつユウリは、「メイサ先生も来てくれるんですか?」と怖々返答した。
「ご名答、大正解だ。まあ当然だな。私もファルヴォスらを目撃しているのだからな。
だが勘違いするなよ。法皇庁直々の特別任務だ。人任せにせず、全力で以て職務に当たるように」
上役然とした調子の命令が来た。「承知しました」とユウリはびしりと返す。
(言動は徹頭徹尾、上から目線。型破りでめちゃくちゃなところもあるけど、メイサ先生は基本的には面倒見の良い人だ。神代の戦は正直恐ろしいけど、全力で頑張れば活路は見出せるはず。気合を入れて臨まないとな)
ユウリはひそかに決心するのだった。