ドローンレーサー

 それが「本当に未来からやってきたんじゃないか?」という憶測に拍車をかけ、メンバーたちの過去荒らしが始まった。ファンがやっている分には問題はなかったが、児童福祉法違反容疑で会社が調査された後、メンバーたちの年齢確認のため、戸籍謄本や住民票を提出する羽目になり、社長の春本は慌てた。本当に戸籍がなかったからだ。
 しかし、「未来からきた」なんて、だれもまともに信じてはくれないし、もし、信じてもらえたら、もらえたで、今度は彼女たちが全世界から好奇の目にさらされる。
 ただのアイドルどころか、人間として見られなくなるのだ。
 そこで春本は、韓国や、東南アジア、さらにブラジルやアメリカなどのブローカーから偽造の出生証明書を取り寄せ、日本国籍を取得したというわけだった。さらに春本と養子縁組をしたので、メンバーたちは全員、戸籍上、春本の子供ということになった。
 しかし、慌てていた春本は、ポーラの分まで手が回らなかった。忘れなかったとしても、春本とポーラはたいして年齢差がない。養子縁組するのは変だったし、春本は既婚者。
 ポーラは、もう未来の世界に戻る気はないという。こっちが気に入ってしまったのだ。
 それで将来を不安視したポーラは、すべての事情を知っている俺に、結婚してくれと言い出したのだ。俺のことが好きだ、とも言ってくれたのには驚いたが、嬉しかった。
 俺は、ポーラに、俺が体験した未来世界での出来事を話した。亀爺さんの話も含めてだ。
「妹の娘にも、喉元に北極星みたいな大きなホクロと、右目の下に五個のホクロがあったそうだ。左の胸にも七つのホクロがあったらしい」
「え? それって、やっぱ、あたしかも?」
「へ? 亀爺さんの話では、右目の下にあるホクロは「W」だ。ポーラのは「M」じゃないか。ホクロの多い人なんて、ザラにいるから、他人のそら似だよ。それに妹は、ポーラを生んだはずはないんだ。親父も妹も、ちゃんと生きてるし」
「カルちゃんから、タイに行って、過去の自分と会った話を聞いたわ。過去の自分と、今の自分は同じでも、別々の世界を生きているって。ちょっとだけ時間や場所がずれるだけで、まったく違う人生になるんだって、言ってたわ。ほら見て」
 そう言うと、ポーラはジャージの上着を脱ぎ捨て、俺がいつもベッド代わりにしているソファに仰向けになった。足を向こうに、頭を俺の方にしている。