見慣れた御殿場の市街地を抜けると、町外れに星野病院があった。
薄汚れたコンクリートの三階建ての病院。敷地は広く、その敷地の隅に立つ、質素な家が俺の実家だ。北側の敷地の隅、病院の陰になる日当たりの悪い場所にある平屋建て。
親父が、通勤時間がもったいないと言って建てた。
家の前には親父の車、十年落ちのライトバンが停めてある。
いざという時は後席を倒して、病人を運ぶことが出来るから、親父は何処に行く時もライトバンを使っていた。貧乏くさくて、俺はそれに乗るのが恥ずかしかった。
俺の初期型RAV4は、たったの十万円で買った二十五年落ちのポンコツだが、その方がはるかにましだった。
そんな親父との辛気臭い生活に嫌気がさし、俺の母親は出て行った。
引き金は、たった一分しかかからない自宅に戻る時間も惜しんで病院に泊まり込む、親父と、若い看護婦との噂話だった。
しかし、昨夜の亀爺さんの話では、何もかも違う。
俺は焦って、玄関のドアを思いっきり開けた。
そこに居たのは、普段と何も変わらない親父と妹。テーブルに座って朝飯を食べている。
「あぁ、帰ってきたのか? 今回の家出は長かったな。プチ家出じゃなくグラン家出だ。フランス語じゃ大きいはグラン。ちなみにドイツ語じゃあ、グロースだ。あぁ~あ」
と大あくびをした。
いきなり、ビーッビーッっと、ブザーが鳴る。
「おっと、朝っぱらから呼び出しだ」
親父はそう言いながら、椅子の背にかけてあった白衣に袖を通しながら俺のそばを足早に通り過ぎると、つっかけを履き、玄関から出て行く。口にはししゃもをくわえていた。
俺を見た瞬間、俺を抱きしめ、
「何処に行ってたんだ、心配してたんだぞ。お父さんが悪かった。許してくれっ!」なんていう感動的な再会シーンを想像していた俺は拍子抜けした。
親父の向いに座って朝食を食べていた妹の乙女が、俺の方につかつかと歩み寄って来た。
これから高校にいくのか、セーラー服を着ている。
バッシーン! いきなりの頬ビンタ。
「明日までに帰って来なかったら、お父さん、警察に捜索願いを出そうって心配してたのよっ! お兄ちゃんのバカっ!」
と言うと、学生カバンを持って出て行った。
玄関のドアが「バタンッ!」と、勢い良く閉まったと思ったら、また開いた。
「ちゃんと後片付け、しといてよっ! このアホたん!」
薄汚れたコンクリートの三階建ての病院。敷地は広く、その敷地の隅に立つ、質素な家が俺の実家だ。北側の敷地の隅、病院の陰になる日当たりの悪い場所にある平屋建て。
親父が、通勤時間がもったいないと言って建てた。
家の前には親父の車、十年落ちのライトバンが停めてある。
いざという時は後席を倒して、病人を運ぶことが出来るから、親父は何処に行く時もライトバンを使っていた。貧乏くさくて、俺はそれに乗るのが恥ずかしかった。
俺の初期型RAV4は、たったの十万円で買った二十五年落ちのポンコツだが、その方がはるかにましだった。
そんな親父との辛気臭い生活に嫌気がさし、俺の母親は出て行った。
引き金は、たった一分しかかからない自宅に戻る時間も惜しんで病院に泊まり込む、親父と、若い看護婦との噂話だった。
しかし、昨夜の亀爺さんの話では、何もかも違う。
俺は焦って、玄関のドアを思いっきり開けた。
そこに居たのは、普段と何も変わらない親父と妹。テーブルに座って朝飯を食べている。
「あぁ、帰ってきたのか? 今回の家出は長かったな。プチ家出じゃなくグラン家出だ。フランス語じゃ大きいはグラン。ちなみにドイツ語じゃあ、グロースだ。あぁ~あ」
と大あくびをした。
いきなり、ビーッビーッっと、ブザーが鳴る。
「おっと、朝っぱらから呼び出しだ」
親父はそう言いながら、椅子の背にかけてあった白衣に袖を通しながら俺のそばを足早に通り過ぎると、つっかけを履き、玄関から出て行く。口にはししゃもをくわえていた。
俺を見た瞬間、俺を抱きしめ、
「何処に行ってたんだ、心配してたんだぞ。お父さんが悪かった。許してくれっ!」なんていう感動的な再会シーンを想像していた俺は拍子抜けした。
親父の向いに座って朝食を食べていた妹の乙女が、俺の方につかつかと歩み寄って来た。
これから高校にいくのか、セーラー服を着ている。
バッシーン! いきなりの頬ビンタ。
「明日までに帰って来なかったら、お父さん、警察に捜索願いを出そうって心配してたのよっ! お兄ちゃんのバカっ!」
と言うと、学生カバンを持って出て行った。
玄関のドアが「バタンッ!」と、勢い良く閉まったと思ったら、また開いた。
「ちゃんと後片付け、しといてよっ! このアホたん!」
