俺は、少し不安になって訊いてみた。
「反対岸の箱根神社。そこの鳥居、湖につきだしている。最高のパワープレイス」
湖面に、ジェロニモの野太い声が響く。
静かだ。
「刑務所に入っていたという話は本当なのか?」
ジェロニモは何も言わず、ただ黙って泳ぎ続ける。
しばらくすると、ぼつぼつ喋り始めた。
「横須賀のネイビーで戦闘型ドローンの整備士をやってた。ある日、レストランの厨房で、白人の兵士がコックの日本人少年犯そうとした。オレが止めようとしたら、その男は銃を抜いた。その男は『こいつは男なんだからレイプにゃならねえ。おカマ野郎だからよろこぶよ』と言って笑った。そしたら、少年が男を包丁で刺した。白人の男死んだ。他に誰もいなかった。オレは少年に逃げろと言った。オレは刑務所に入れられた。ニュースにオレの顔出た。刑務所出ても、この顔のタトゥーみんな覚えてる。雇ってくれない。オレは樹海を歩いた。死に場所を探していたわけじゃない。あっちの世界に行きたかっただけ。あっちの世界、苦しみも憎しみも争いも、なにもない。オレは輪っかぶらさげて待っていた。でも鳥は現れなかった。代わりに、亀爺さん現れた……」
言い終わるとジェロニモはまた黙って泳ぎ続けた。
雲も霞(かすみ)もないのに、俺には黄色い月が滲んで見えた。
一時間ぐらい経っただろうか? とうとう反対岸に着いた。湖の中に鳥居が突き出して立っている。鳥居の真下に、陸に上がる傾斜路があり、俺の体は、そこに小さなボートのように接岸された。仰向けなので真下から月光に照らされた、赤く大きな鳥居が夜空にそびえているのが見える。
筋弛緩剤の効き目が薄れてきたのか、俺は上半身を動かせるようになっていた。自分でペットボトルのロープをほどくと、ジェロニモがロープを鳥居に投げて引っ掛けた。
ランディングパッドを広げて、ループにすると、低い位置になるよう、ロープに結んだ。ジェロニモの頭から下ろしたバッグからマイクロドローンを取り出す。
体は、ゆっくりとしか動かせないが、指先は、素早く動かせそうだった。
深夜の一時頃だろうか? 満月が鳥居の真正面にあり、俺たちを照らしている。
上半身裸のジェロニモは、膝まで水につかったまま、ただ、黙って立っている。
俺はマイクロドローンを手のひらから離陸させると、ゆっくりとループをくぐらせた。
「反対岸の箱根神社。そこの鳥居、湖につきだしている。最高のパワープレイス」
湖面に、ジェロニモの野太い声が響く。
静かだ。
「刑務所に入っていたという話は本当なのか?」
ジェロニモは何も言わず、ただ黙って泳ぎ続ける。
しばらくすると、ぼつぼつ喋り始めた。
「横須賀のネイビーで戦闘型ドローンの整備士をやってた。ある日、レストランの厨房で、白人の兵士がコックの日本人少年犯そうとした。オレが止めようとしたら、その男は銃を抜いた。その男は『こいつは男なんだからレイプにゃならねえ。おカマ野郎だからよろこぶよ』と言って笑った。そしたら、少年が男を包丁で刺した。白人の男死んだ。他に誰もいなかった。オレは少年に逃げろと言った。オレは刑務所に入れられた。ニュースにオレの顔出た。刑務所出ても、この顔のタトゥーみんな覚えてる。雇ってくれない。オレは樹海を歩いた。死に場所を探していたわけじゃない。あっちの世界に行きたかっただけ。あっちの世界、苦しみも憎しみも争いも、なにもない。オレは輪っかぶらさげて待っていた。でも鳥は現れなかった。代わりに、亀爺さん現れた……」
言い終わるとジェロニモはまた黙って泳ぎ続けた。
雲も霞(かすみ)もないのに、俺には黄色い月が滲んで見えた。
一時間ぐらい経っただろうか? とうとう反対岸に着いた。湖の中に鳥居が突き出して立っている。鳥居の真下に、陸に上がる傾斜路があり、俺の体は、そこに小さなボートのように接岸された。仰向けなので真下から月光に照らされた、赤く大きな鳥居が夜空にそびえているのが見える。
筋弛緩剤の効き目が薄れてきたのか、俺は上半身を動かせるようになっていた。自分でペットボトルのロープをほどくと、ジェロニモがロープを鳥居に投げて引っ掛けた。
ランディングパッドを広げて、ループにすると、低い位置になるよう、ロープに結んだ。ジェロニモの頭から下ろしたバッグからマイクロドローンを取り出す。
体は、ゆっくりとしか動かせないが、指先は、素早く動かせそうだった。
深夜の一時頃だろうか? 満月が鳥居の真正面にあり、俺たちを照らしている。
上半身裸のジェロニモは、膝まで水につかったまま、ただ、黙って立っている。
俺はマイクロドローンを手のひらから離陸させると、ゆっくりとループをくぐらせた。
