ドローンレーサー

 たこ焼きコンロの隣には、チャキのフィルムが入った段ボール箱が山積みになっていた。

 何度かそのやり方で公演をこなしたが、しかし、それもいっぱいいっぱいだった。
 さすがの体育会系の彼女たちも疲れが溜まってきた。
 小遣いもそれなりに多めにもらったが、使う暇もないほど忙しい。
 時間をみて、原宿や渋谷にでかけてみても、彼女たちにとっては変に古臭いものばかり。
 思い切って百年とか、それ以上古ければ面白みもあったのだろうが、三十年は中途半端すぎた。
「あたしもう嫌っ、辞める! やめて未来に帰る」小学六年生の、王が、また泣き出した。
「あいつはいないし、どうやって未来に帰るっていうのよ」
「未来に帰っても、また宅配の仕事しなきゃいけないのよ」
「帰っても、ミニスカ履いてたこ焼き焼くのは同じでしょ!」
「私は、この過去の世界のほうが好きだわ」
「古臭いけど、なんだか面白いし」
「こっちの過去の世界で頑張ろうよ!」
「でも、もう帰りたい」
「そんなこと言わないで、お客さんたち、みんな私たちに会えて、元気をもらったって喜んでくれてるじゃない」
「たこちゅうにゅうしてもらって、うつ病がなおりました、って言ってたわ」
「私たちは人のために役立ってるのよ。あっちの世界でそんなことあった?」
「たこちゅうにゅうのおかげで、会社をリストラされても電車に飛び込まずにすみました、って言ってくれたおじさんもいるわ」
「でも、もういっぱいいっぱい、もう疲れちゃったの、帰りたい……」
 王はまだ小学生だ。体力的にも精神的にも、そう言うのも無理はない。宅配の方が楽なのだ。
 宅配に行った先の、おじいちゃんやおばあちゃんが、時々お菓子もくれるし、ジュースまで出してくれる。
 スケジュールがハードすぎたのだ。
 みんな、いっぱいいっぱいだった。

 そんな日のことだった。
「しゃしゃしゃ、しゃちょ、たたた、た、大変です。ポ、ポポポ、ポ、ポコ次郎越えです!」
 パソコンをしながらいつもポテトチップスを食べている、メガネをかけ太ったドールキッズ社のヲタ契約社員があわあわしている。
「ビビビビビ、ビーバー、ジャストンビーバーも、テテテ、テイラースイフも、ケケケ、ケイテーもあっさり越えてますっううううう~」
 ポテトチップスの袋を床に落とした。