ドローンレーサー

 優れものだが、未来ではどんなスマホにも標準装備の、当たり前の機能だった。
 ベティは韓に渡し、他のメンバー三人にも渡した。
 衣装に胸ポケットがある者は、ポケットに、そうでない者は手に持ったまま、お客さんと接する。カードサイズスマホなんて存在してなかったし、ご多分にもれず、デコシールなどで飾っていたから、まさか未来のスマホだとは思われなかった。

 二回目の公演後に、もう一度来てくれたリピーターの客は案の定、度肝を抜かれていた。
 韓も王も、他のメンバーも、さっき会話した情報を丸覚えしていたからだ。
 それに、初回と違って、スマホと通信できる小型イヤホンをしていたから、視線をいちいちスマホに移動することなく、相手の情報を言い当てた。
 目の前にいる人の顔を瞬時に読み取り、イヤホンに電子音声で情報が流れる。
『コヤマフトシ、エーガタ、ジュウガツサンニチウマレ、ニジュウナナサイ、アイティーベンチャーキンム、オダキュウセンエンセンザイジュウ、シュミ、ポケモンゴー』
「あら~、またきてくれたんですね~、こやまふとしさん。お仕事、早いんでしょ~、大丈夫ですか~、小田急線、混みますからね~、血液型A型の人は、お寝坊さんが多いから、遅刻しないように明日も頑張ってくださいね~、十月三日が誕生日だったですよね~、その日はポケモンやらずに、また、会いに来てくれるのかな~?!」
 小山太(フトシ)という、子ブタがメガネをかけたような男の顔は、もう、とろけだし、メガネがずり落ちている。ちょいワルに見える、軽くイキったデザインのメガネ。
 そのずり落ちたメガネのレンズが、デブ特有の荒い息遣いで曇っていた。

 フトシは、三回目も、四回目の公演後もやってきた。
 四回目の、韓との一分間のチャキタイムが終わると、ぶつぶつ独り言を言い始めた。
「カンちゃんはオラを完全認知すてくれた。これはリアコだ。いや絶対そうだ。間違いね。オラのことが好きなんだ。ガツ恋だ。オラぁもう絶対に浮気はすねえ、オラが育ててやるんだ、オラがカンちゃんをビッグにすてやるんだ、オラが、オラが、……」
 フトシは唇を突き出して、ぶつぶつ言いながらもう一度ループし、最後尾に着く。
 五回目の公演の最中、韓が歌い出すと、感極まったフトシは徳光(とくみつ)った。