ドローンレーサー

 最近では撮った写真にQRコードを入れて、それをアプリで読み込ませると、スマホから撮影時に録音した音声が流れるチャキカメラまで登場した。
 しかしその欠点は撮影の際、少し手間がかかり、現像にも時間がかかること。
 ヲタの持ち時間は一分しかないから、そんなことでの数秒のロスは致命傷といえた。
「一分間のランデブー」は、そんな、切ないヲタの気持ちを歌ったラブソングなのだった。
「あれ? ユウキくん、髪切ったぁ~?」
「おやおや~、タカノブくん、今日は期末試験のはずだぞ~、きてくれたんだね~」
「あら~、おひさしぶりですぅ~、タナカさん~。今日はお仕事、さぼっちゃたの~」
「またまた会いにきてくれたんですね~、モリタさん~、おつかれのようすですね~、大丈夫ですか~、じゃあ、チャキに、『頑張って!』って書いちゃいますね~」
「ノムラく~ん、そういえばもうすぐ誕生日ですね~、おめでとうございますですぅ~」
 リピートで来た客がそんなことを言われてしまったら、たいていのヲタは、どつぼにはまってしまう。
 銀座のナンバーワンホステスが、決して美人じゃなく、記憶力のいいマメな女性だというのと同じだ。今や、地下アイドルは接客業と化している。
 だから春本は「お客さんの顔と名前をできるだけ覚えろ」と厳命したのだった。
 ピーチバレーズのチャキ会参加者は、各メンバー、それぞれ、十七、八人ずつだった。
 心配されたヘドロにも女性ファンが列を作っている。人数が少なかったので、急遽、ファンサービスで、時間が三分に延長されたが、韓が、すぐにかんしゃくを起こした。
「あーん、ちきしょうっ、もうっ、覚えられないっ! ムリムリムリ!」
 わずか三人目のお客さんの時に、塩対応してしまった。
 列を作って待っていたヲタがドン引きしている。
「あっ! そうだっ! いいこと思い出したっ! 待ってて、カンちゃん」
 隣の席で接客していたベティが楽屋の方に走って行くと、ポーラに頼み込んで、ポーラがまとめて保管していた全員のスマホを持って帰ってきた。
 折り紙を畳んだようなカードサイズで、広げると四倍の大きさになる未来のスマホには顔識別アプリが備わっている。名刺サイズに折りたたんだまま、ピンホールのカメラを人に向けると、その人の情報が瞬時に出る。情報は、話をしていれば自動的に入力される。